法人
役員を5年以下で退職すると、退職金の「2分の1」がなくなります。
特定役員退職手当等の計算
退職金は税金が軽い。退職所得控除を引いたうえで、さらに2分の1にしてから税率を掛けるからです。
ところが、役員としての勤続年数が5年以下だと、この2分の1がなくなります。短期間だけ役員になって退職金を受け取る形での節税を防ぐ規定です。国税庁のタックスアンサーNo.2737で、判定と計算を確認します。
この記事の要点
退職所得は通常「(収入−退職所得控除)×1/2」ですが、役員等としての勤続年数が5年以下の人が受ける退職金(特定役員退職手当等)には2分の1がありません。勤続年数は1年未満を切り上げるため、4年11か月は5年、5年1か月は6年。使用人期間と役員期間の両方がある場合は、40万円×役員年数の特定役員退職所得控除額で分けて計算します。国税庁タックスアンサーNo.2737の計算例つき。
退職所得の原則と、特定役員退職手当等の例外
退職所得の金額は、原則として、その年に受けた退職金の収入金額から勤続年数に応じた退職所得控除額を引き、その残額の2分の1です。しかし特定役員退職手当等については、この2分の1にする措置がありません。
国税庁 タックスアンサー No.2737「役員等の勤続年数が5年以下の者に対する退職手当等(特定役員退職手当等)」
退職所得の金額は、その年中に支払を受ける退職手当等の収入金額から、その者の勤続年数に応じて計算した退職所得控除額を控除した残額の2分の1に相当する金額とされていますが、特定役員退職手当等については、この残額の2分の1とする措置はありません。
特定役員退職手当等とは、役員等としての勤続年数が5年以下の人が、その役員としての勤続期間に対応する退職金として受け取るものです。退職所得控除は引けますが、残額がそのまま課税対象になります。
5年以下の判定:1年未満は切り上げ
役員等勤続年数は、役員として勤務した期間の年数で、1年未満の端数は1年に切り上げます。
国税庁 タックスアンサー No.2737「役員等の勤続年数が5年以下の者に対する退職手当等(特定役員退職手当等)」
(例) 役員等勤続期間が4年11か月の場合は、役員等勤続年数が5年となることから、特定役員退職手当等に該当します。また、役員等勤続期間が5年1か月の場合は役員等勤続年数が6年となることから特定役員退職手当等には該当しません。
| 役員としての勤続期間 | 役員等勤続年数(切上げ後) | 特定役員退職手当等 |
|---|---|---|
| 4年11か月 | 5年 | 該当する(2分の1なし) |
| 5年ちょうど | 5年 | 該当する(2分の1なし) |
| 5年1か月 | 6年 | 該当しない(2分の1あり) |
切り上げがあるので、5年を1か月でも超えれば6年になり、特定役員から外れます。逆に、5年ちょうどでは外れません。役員就任日から5年と1日以上たってから退職する、というのが実務上の線です。
「役員等」の範囲
国税庁 タックスアンサー No.2737「役員等の勤続年数が5年以下の者に対する退職手当等(特定役員退職手当等)」
1 法人の取締役、執行役、会計参与、監査役、理事、監事、清算人や法人の経営に従事している者で一定の者
2 国会議員や地方公共団体の議会の議員
3 国家公務員や地方公務員
取締役や監査役はもちろん、登記されていなくても「法人の経営に従事している者で一定の者」(みなし役員)も含まれます。同族会社で実質的に経営に関与している家族などは、役員でなくても役員等に当たる可能性があります。
役員期間だけの場合:収入 − 退職所得控除
その年に受けた退職金が特定役員退職手当等だけの場合、退職所得の金額は、収入金額から退職所得控除額を引いた額です。2分の1はしません。
国税庁 タックスアンサー No.2737「役員等の勤続年数が5年以下の者に対する退職手当等(特定役員退職手当等)」
(例1)役員としての勤続期間:4年9か月
・役員退職金 500万円
・勤続年数5年(うち役員勤続年数5年:特定役員退職手当等に該当)
・退職所得金額:500万円 -(40万円 × 5年) = 300万円
4年9か月は切り上げて5年。退職所得控除は40万円×5年=200万円。500万円から200万円を引いた300万円が、そのまま退職所得です。通常なら300万円の2分の1の150万円が課税対象ですが、特定役員なので300万円のままです。
使用人期間と役員期間がある場合:40万円×役員年数で分ける
従業員として働いた後に役員になり、役員としては5年以下で退職した場合、退職金のうち役員期間に対応する部分(特定役員退職手当等)と使用人期間に対応する部分(一般退職手当等)を分けて計算します。
国税庁 タックスアンサー No.2737「役員等の勤続年数が5年以下の者に対する退職手当等(特定役員退職手当等)」
退職所得の金額は、次の(イ)と(ロ)の金額の合計額です。
(イ) 特定役員退職手当等の収入金額 - 特定役員退職所得控除額
(ロ) {一般退職手当等の収入金額 - (退職所得控除額 - 特定役員退職所得控除額)} × 1/2
特定役員退職所得控除額は、役員期間と使用人期間が重複していなければ40万円×特定役員等勤続年数です。重複期間(使用人兼務役員の期間など)があれば、40万円×(特定役員等勤続年数−重複勤続年数)+20万円×重複勤続年数になります。
役員部分は2分の1なし、使用人部分は2分の1あり。退職所得控除は全体で計算し、そのうち役員分を役員部分に、残りを使用人部分に振り分けます。
国税庁の計算例
国税庁 タックスアンサー No.2737「役員等の勤続年数が5年以下の者に対する退職手当等(特定役員退職手当等)」
(例2)使用人として10年勤務し、その後役員に就任して3年間勤務した後、退職したケース
・使用人退職金 800万円、役員退職金500万円
・勤続年数:13年(うち役員勤続年数3年:特定役員退職手当等に該当)
・退職所得控除額: 40万円 × 13年 = 520万円
・特定役員退職所得控除額: 40万円 × 3年 = 120万円
・退職所得金額: (500万円 - 120万円)+ {800万円 -(520万円 - 120万円)} × 1/2 = 580万円
| 役員部分(特定役員) | 使用人部分(一般) | |
|---|---|---|
| 収入 | 500万円 | 800万円 |
| 控除 | 120万円(40万円×3年) | 400万円(520万円−120万円) |
| 残額 | 380万円 | 400万円 |
| 2分の1 | なし → 380万円 | あり → 200万円 |
| 退職所得 | 380万円 + 200万円 = 580万円 | |
例3は、使用人兼務役員の期間3年が重複勤続年数になるケースで、特定役員退職所得控除額は40万円×(5年−3年)+20万円×3年=140万円、退職所得は530万円と示されています。使用人兼務役員の期間がある方は、重複の扱いで控除額が変わります。
中小企業で起きる場面
後継者が数年だけ役員を務めて退任する場合。親が引退し、子が代表になって数年で会社を畳む、あるいは売却する、というときに子の役員退職金が特定役員になることがあります。
配偶者を役員にして退職金を出す場合。配偶者を取締役にして数年後に退任させ、退職金を支給する。役員在任が5年以下なら2分の1がありません。就任日から5年を超えてから退任するよう、時期を設計します。
令和4年以後は、短期退職手当等の規定もあります。役員でない従業員でも、勤続5年以下の退職金について退職所得控除後の残額の一定額を超える部分に2分の1がなくなる別の規定(短期退職手当等)が令和4年から入っています。役員か従業員かにかかわらず、勤続5年以下の退職金は注意が必要です。同じ年に一般退職手当等と特定役員退職手当等の両方がある場合の計算は、コード2741に説明があります。
よくある質問
特定役員退職手当等とは何ですか
退職所得の金額は、原則として、その年に受けた退職金の収入金額から勤続年数に応じた退職所得控除額を引き、その残額の 2分の1 です。しかし特定役員退職手当等については、この2分の1にする措置がありません。→ 本文で読む
役員の勤続年数が5年以下かどうかはどう判定しますか
役員等勤続年数は、役員として勤務した期間の年数で、 1年未満の端数は1年に切り上げ ます。 切り上げがあるので、 5年を1か月でも超えれば6年になり、特定役員から外れます。 逆に、5年ちょうどでは外れません。役員就任日から5年と1日以上たってから退職する、というのが実務上の線です。→ 本文で読む
役員を5年以下で退職した場合の退職所得はどう計算しますか
その年に受けた退職金が特定役員退職手当等だけの場合、退職所得の金額は、収入金額から退職所得控除額を引いた額です。2分の1はしません。 4年9か月は切り上げて5年。退職所得控除は40万円×5年=200万円。500万円から200万円を引いた300万円が、そのまま退職所得です。通常なら300万円の2分の1の150万円が課税対象ですが、特定役員なので300万円のままです。→ 本文で読む
従業員から役員になって退職した場合、退職金の税金はどう計算しますか
従業員として働いた後に役員になり、役員としては5年以下で退職した場合、退職金のうち役員期間に対応する部分(特定役員退職手当等)と使用人期間に対応する部分(一般退職手当等)を分けて計算します。→ 本文で読む
配偶者を役員にして退職金を出す場合の注意点は何ですか
後継者が数年だけ役員を務めて退任する場合。 親が引退し、子が代表になって数年で会社を畳む、あるいは売却する、というときに子の役員退職金が特定役員になることがあります。 配偶者を役員にして退職金を出す場合。 配偶者を取締役にして数年後に退任させ、退職金を支給する。役員在任が5年以下なら2分の1がありません。就任日から5年を超えてから退任するよう、時期を設計します。→ 本文で読む
出典
- 国税庁「No.2737 役員等の勤続年数が5年以下の者に対する退職手当等(特定役員退職手当等)」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2737.htm
この記事は、記載時点で公表されている法令・通達・国税庁の資料にもとづいて書いています。制度は改正されることがあり、また個別の事情によって取扱いは変わります。実際のご判断にあたっては、税理士にご相談いただくか、所轄の税務署にお確かめください。当事務所は本記事の情報を用いて行われた判断について責任を負いかねます。
役員退職金の支給を考えている方は、役員就任日を確認してください。
役員としての在任期間が5年前後なら、退職の時期を数か月ずらすだけで税額が大きく変わります。退職金規程の整備と合わせてご相談ください。
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