消費税
食品を売る事業者がやること。
届出の特例・簡易課税の特例・総額表示・インボイスの書き方
税率が変わるとき、実務でいちばん困るのは「制度が決まってから準備期間が足りない」ことです。令和元年10月の軽減税率導入では、レジの改修が間に合わない事業者が続出しました。
今回の大綱には、その反省を踏まえたと読める手当てが入っています。届出の期限、簡易課税、中間申告、総額表示の4つ。いずれも知らないと損をするか、あわてることになります。大綱の本文で1つずつ確認します。
この記事の要点
令和9年4月からの飲食料品1%に向けて、大綱には事業者向けの手当てが4つ入りました。本則課税への移行は届出期限が課税期間の末日まで後ろ倒しされ、簡易課税の2年縛りも解除。簡易課税のままでも飲食料品の売上は仕入控除税額=売上税額で税額が出ません(2割特例・3割特例も同様)。中間申告は1%で再計算した額を書け、総額表示は前後最大2か月の特例があります。インボイスの記載方法まで、大綱本文で確認します。
① 本則課税に移る届出は「課税期間の末日」まででよい
売上の税率が1%に下がり、仕入や経費の税率が10%のままだと、本則課税なら還付になる事業者が出てきます。ところが通常のルールでは、課税事業者を選ぶ届出も、簡易課税をやめる届出も、その課税期間が始まる前の日までに出さなければなりません。令和9年4月1日を含む課税期間が既に始まっていれば、もう間に合わない、ということになります。
大綱は、この点を正面から認めて手当てしています。
大綱 第二 二1
令和9年4月1日の属する課税期間が既に開始している事業者や簡易課税制度の適用を選択して2年が経過していない事業者は、飲食料品に係る消費税率の臨時的な引下げを受けて、本則課税に移行し、還付申告を行う必要があっても、現行制度上は当該移行ができないこととなる。
これを踏まえ、課税事業者選択届出書等の提出について、次の措置を講ずる。
(1)飲食料品の譲渡を行う事業者が、令和9年4月1日の属する課税期間から課税事業者となることを選択する場合において、その課税期間の末日までに課税事業者選択届出書を提出したときは、当該課税期間の初日の前日に提出したものとみなす。
| 届出 | 通常の期限 | 今回の特例 |
|---|---|---|
| 消費税課税事業者選択届出書 | 課税期間の初日の前日まで | その課税期間の末日まで(初日の前日に出したものとみなす) |
| 簡易課税制度選択不適用届出書 | 課税期間の初日の前日まで | その課税期間の末日まで(同上) |
個人事業者なら、令和9年4月1日を含む課税期間は令和9年分(令和9年1月1日〜12月31日)です。令和9年12月31日までに出せばよいことになります。3月決算以外の法人も、その事業年度の末日まで猶予があります。
対象は「飲食料品の譲渡を行う事業者」です
大綱の条文は「飲食料品の譲渡を行う事業者が」と限定しています。飲食料品を売っていない事業者の届出期限は、通常どおりです。この特例は、今回の税率引下げの影響を受ける事業者のために置かれたものです。
2年縛りも解除されます
簡易課税には、いったん選ぶと2年間はやめられないという制限(2年縛り)があります。今回はこれも外れます。
大綱 第二 二1(2)
簡易課税制度選択届出書を提出している飲食料品の譲渡を行う事業者が、令和9年4月1日の属する課税期間について簡易課税制度の適用をやめようとする場合において、その課税期間の末日までに簡易課税制度選択不適用届出書を提出したときは、当該課税期間の初日の前日に提出したものとみなすほか、簡易課税制度を選択した場合の2年間の継続適用要件(簡易課税制度に関するいわゆる2年縛り)は適用しないこととする。
令和8年から簡易課税を選んだばかりの方も、令和9年分から本則課税に戻れます。「去年簡易を選んでしまったから動けない」ということはありません。
② 簡易課税でも、飲食料品の売上には税額が出ない
ここが、今回いちばん大きな手当てだと思います。
簡易課税は、売上の消費税にみなし仕入率を掛けた額を控除する方式です。税率が1%に下がると売上の消費税が小さくなり、控除もそれに比例して小さくなります。結果として、実際には仕入や経費で10%を払っているのに、簡易課税だと納税額が出てしまう。大綱はこの問題をこう書いています。
大綱 第二 二2
簡易課税制度の適用を受ける事業者においては、飲食料品に係る消費税率の臨時的な引下げの後も、現行制度上は飲食料品の譲渡について一定の納付税額が発生する一方、仮に本則課税を適用していれば納付税額が発生しない場合が多いと見込まれる。
これを踏まえ、簡易課税制度において可能な最大限の対応として、簡易課税制度の適用を受ける事業者が特例対象課税資産の譲渡を行った場合における特例対象課税資産の譲渡に対応する仕入控除税額については、業種区分にかかわらず、当該特例対象課税資産の譲渡に係る消費税額(いわゆる売上税額)と同額とする特例を設ける。
飲食料品の売上については、仕入控除税額を売上税額と同額にする。引き算の結果はゼロです。つまり、簡易課税のままでも、飲食料品の売上から納める消費税は出ません。みなし仕入率が何%かは関係ありません。「業種区分にかかわらず」と書かれています。
| 売上 | 簡易課税での扱い(令和9年4月〜) |
|---|---|
| 飲食料品(特例対象課税資産の譲渡) | 仕入控除税額=売上税額 → 納税額はゼロ |
| それ以外(10%の商品・サービス、新聞など) | これまでどおり、みなし仕入率で計算 |
大綱 第二 二2(注)
上記特例を適用する場合には、特例対象課税資産の譲渡以外の課税資産の譲渡等(例:軽減税率の適用対象となっている飲食料品以外の商品の販売)に係る売上税額に基づき、現行の簡易課税制度等を適用する。
2割特例・3割特例も同じ扱い
インボイス登録で課税事業者になった小規模事業者の特例も、同じ扱いになります。
大綱 第二 二2
また、適格請求書発行事業者となる小規模事業者に係る税額控除に関する経過措置(いわゆる2割特例・3割特例)の適用を受ける場合についても同様とする。
個人事業者の3割特例は令和9年分・令和10年分に使えます(3割特例の記事)。ちょうど税率1%の期間と重なりますので、飲食料品を売る個人事業者は、3割特例を使っていても飲食料品の売上からは納税が出ないことになります。
③ 中間申告は1%で計算し直した額を書ける
中間申告の税額は、前の課税期間に納めた税額をもとに計算します。前年が8%、今年が1%だと、中間で納める額が明らかに多すぎることになります。
大綱 第二 二3(1)
令和9年4月1日以後に開始する中間申告対象期間に係る中間申告書に記載すべき中間申告税額については、直前の課税期間において行われた飲食料品の譲渡及び飲食料品の譲渡に係る課税仕入れ並びに保税地域から引き取られる飲食料品について特例税率が適用されたものとした場合の消費税額に基づき計算した中間申告税額(当該中間申告税額がない場合には、零。)を記載できることとする。
「前年も1%だったとしたら、いくらだったか」で計算し直してよい、ということです。計算の結果ゼロならゼロと書けます。仮決算による中間申告書に、その金額を記載して出します。
逆に、税率が8%に戻る令和11年4月1日以後に開始する中間申告対象期間については、「前年も8%だったとしたら」で計算し直します。こちらは中間納税が増える方向です。
④ 総額表示は前後最大2か月の猶予がある
値札やメニューは、税込価格(総額)で表示する義務があります。税率が変わる日に全部の値札を貼り替えるのは、店舗によっては不可能です。大綱は、総額表示の義務は維持したうえで、期間を区切った特例を置きました。
大綱 第二 二4
例えば税抜価格(いわゆる本体価格)のみを表示する方法や税抜価格に続けて「+税」とのみ表示する方法など、税込価格を表示しない方法は、引き続き認められないこととする。一方で、夜間の値札の貼替作業に対応できない、カタログや商品パッケージ自体に価格が印字されている等の理由から、税率変更時に適切な税率での総額表示が間に合わない状況が発生する可能性もある。
そのうえで、直ちに対応できない事情がある場合に限り、誤認防止の措置を講じていれば、次の期間はずれた税率での総額表示が認められます。
| 期間 | 表示してよい価格 | 状況 |
|---|---|---|
| 令和9年2月1日 〜 3月31日 | 1%に基づく税込価格 | まだ8%だが、先に1%の値札に替えてよい |
| 令和9年4月1日 〜 5月31日 | 8%に基づく税込価格 | 1%になったが、8%の値札のままでよい |
| 令和11年2月1日 〜 3月31日 | 8%に基づく税込価格 | まだ1%だが、先に8%の値札に替えてよい |
| 令和11年4月1日 〜 5月31日 | 1%に基づく税込価格 | 8%に戻ったが、1%の値札のままでよい |
条件は「誤認されないための措置」です
大綱は「その表示する特例表示価格が本来表示すべき税込価格であると誤認されないための措置を講じている場合」と条件を付けています。値札の金額と、レジで請求する金額が違うわけですから、店内の掲示などで「表示価格と実際のお支払金額が異なります」と知らせる必要があります。何をすれば足りるのかは、今後の国税庁の資料で確認してください。
インボイスには「1%」と書く。返品・貸倒れも1%
適格請求書(インボイス)の書き方も、大綱に明記されています。
大綱 第二 一1(注2)(注3)
(注2)上記の特例対象課税資産の譲渡を行い、又は特例対象課税資産の譲渡を受けた場合における適格請求書、仕入明細書その他の書類の「適用税率」の欄には特例税率を、「消費税額等」の欄には特例税率に基づく消費税額等の額をそれぞれ記載するものとする。
(注3)上記の特例対象課税資産の譲渡についての売上げに係る対価の返還等、貸倒れ、仕入れに係る対価の返還等があった場合等については、特例税率に基づき計算する。
- インボイスの「適用税率」欄には 1%(特例税率)と書く
- 「消費税額等」欄には 1%で計算した額を書く
- 仕入明細書(買い手が作る書類)も同じ
- 返品・値引き(対価の返還等)、貸倒れも 1%で計算する
返品の税率は、返品した日ではなく元の売上の税率で計算します。令和11年4月以降に、1%で売った商品が返品されたら、その返金にかかる消費税は1%です。逆に、令和9年4月以降に8%で売った商品(経過措置の対象だったもの)が返品されたら8%です。売上の記録に「どの税率で売ったか」を残しておかないと、返品の処理ができません。
令和9年3月までの準備
| 時期 | やること |
|---|---|
| いま〜 | レジ・販売システム・会計ソフトのベンダーに、1%対応の時期を確認する。大綱は中小企業等への改修支援を行うとしています |
| 令和8年12月まで | 令和9年1月以後に結ぶ定期供給契約・通信販売の条件提示を、どちらの税率で出すか決める |
| 令和9年2月〜3月 | 値札・メニュー・カタログ・ECの表示を切り替え(この期間は1%表示が先行して認められます) |
| 令和9年3月31日 | 棚卸。3月末までの売上(8%)と4月以後の売上(1%)を確実に分ける |
| 令和9年4月1日 | 税率切替。請求書・領収書の税率表示を確認 |
| 課税期間の末日まで | 本則課税に移るなら届出(個人は令和9年12月31日まで) |
決算期が令和9年4月をまたぐ法人(3月決算以外)は、1つの事業年度の中に8%の売上と1%の売上が混在します。会計ソフトの税区分を、期中で切り替える設計にしておいてください。
結局、簡易課税と本則課税のどちらがよいのか
大綱の特例で、簡易課税のままでも飲食料品の売上から納税は出ません。では本則課税に移る意味は何かというと、仕入や経費で払った10%の消費税が還付されることです。
| 簡易課税のまま | 本則課税に移る | |
|---|---|---|
| 飲食料品の売上にかかる納税 | ゼロ(特例) | ゼロに近い(売上税額1%) |
| 包装資材・家賃・光熱費などの10% | 控除できない | 控除でき、還付されうる |
| 設備投資(10%) | 控除できない | 控除でき、還付されうる |
| 帳簿の手間 | 売上の集計だけ | 仕入・経費の区分経理とインボイスの保存が必要 |
| 届出 | 不要 | 課税期間の末日までに提出(特例) |
目安としては、10%の経費や設備投資が大きい事業者ほど本則課税が有利です。逆に、経費がほとんどない、あるいは仕入も飲食料品(1%)が中心という事業者は、簡易課税のままでも大きな差は出ません。帳簿の手間を考えると、無理に移る必要はありません。
判断は、令和9年の実績が見えてからでも間に合います。届出の期限が課税期間の末日まで延びたのは、そのためです。あわてて年内に決める必要はありません。ただし、還付を受けるには帳簿とインボイスの保存が前提ですので、本則課税にする可能性があるなら、4月から区分経理は始めておいてください。後から「やっぱり本則で」と決めても、資料がなければ還付は受けられません。
よくある質問
消費税1%に合わせて本則課税に移る届出はいつまでに出しますか
売上の税率が1%に下がり、仕入や経費の税率が10%のままだと、本則課税なら 還付 になる事業者が出てきます。ところが通常のルールでは、課税事業者を選ぶ届出も、簡易課税をやめる届出も、 その課税期間が始まる前の日まで に出さなければなりません。令和9年4月1日を含む課税期間が既に始まっていれば、もう間に合わない、ということになります。→ 本文で読む
簡易課税を選んで2年たっていなくても本則課税に戻れますか
簡易課税には、いったん選ぶと2年間はやめられないという制限(2年縛り)があります。今回はこれも外れます。 令和8年から簡易課税を選んだばかりの方も、令和9年分から本則課税に戻れます。 「去年簡易を選んでしまったから動けない」ということはありません。→ 本文で読む
簡易課税のままだと飲食料品の売上に消費税がかかりますか
簡易課税は、売上の消費税にみなし仕入率を掛けた額を控除する方式です。税率が1%に下がると売上の消費税が小さくなり、控除もそれに比例して小さくなります。結果として、実際には仕入や経費で10%を払っているのに、簡易課税だと納税額が出てしまう。大綱はこの問題をこう書いています。→ 本文で読む
2割特例や3割特例を使っている場合はどうなりますか
個人事業者の3割特例は令和9年分・令和10年分に使えます( 3割特例の記事 )。ちょうど税率1%の期間と重なりますので、 飲食料品を売る個人事業者は、3割特例を使っていても飲食料品の売上からは納税が出ない ことになります。→ 本文で読む
消費税が1%になると中間申告の税額はどうなりますか
中間申告の税額は、前の課税期間に納めた税額をもとに計算します。前年が8%、今年が1%だと、中間で納める額が明らかに多すぎることになります。 「前年も1%だったとしたら、いくらだったか」で計算し直してよい、ということです。計算の結果ゼロなら ゼロと書けます 。仮決算による中間申告書に、その金額を記載して出します。→ 本文で読む
値札の貼り替えが間に合わない場合はどうすればよいですか
値札やメニューは、税込価格(総額)で表示する義務があります。税率が変わる日に全部の値札を貼り替えるのは、店舗によっては不可能です。大綱は、総額表示の義務は維持したうえで、期間を区切った特例を置きました。→ 本文で読む
消費税1%のときインボイスにはどう記載しますか
返品の税率は、返品した日ではなく 元の売上の税率 で計算します。令和11年4月以降に、1%で売った商品が返品されたら、その返金にかかる消費税は1%です。逆に、令和9年4月以降に8%で売った商品(経過措置の対象だったもの)が返品されたら8%です。 売上の記録に「どの税率で売ったか」を残しておかないと、返品の処理ができません。→ 本文で読む
出典
- 内閣官房「飲食料品消費税率の臨時的な引下げ及び就業者負担軽減支援金の導入に関する大綱」(令和8年9月15日 閣議決定)本文
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/shouhizei_zeigakukoujo/pdf/sankou4.pdf(PDF) - 同 概要資料
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/shouhizei_zeigakukoujo/pdf/sankou5.pdf(PDF) - 財務省「令和9年度及び令和10年度の飲食料品に係る消費税率の臨時的な引下げ」
https://www.mof.go.jp/tax_policy/20260915shouhizei.html
この記事は、記載時点で公表されている法令・通達・国税庁の資料にもとづいて書いています。制度は改正されることがあり、また個別の事情によって取扱いは変わります。実際のご判断にあたっては、税理士にご相談いただくか、所轄の税務署にお確かめください。当事務所は本記事の情報を用いて行われた判断について責任を負いかねます。
ご自身の事業でどちらが有利か、数字で出します。
飲食料品の売上比率、10%の経費の額、設備投資の予定。この3つが分かれば、本則課税と簡易課税それぞれの納税額を計算してお出しします。届出の期限が延びたぶん、落ち着いて判断できます。
あわせて読む
同じテーマの記事
消費税の実務
総額表示の義務。値札もチラシも「税込」で書きます
事業者が消費者にあらかじめ価格を表示するときは、消費税を含めた税込価格で表示する義務があります。
消費税の実務
返品・値引き・割戻しがあったときの消費税の調整
返品、値引き、割戻し、販売奨励金、売上割引などは「売上げに係る対価の返還等」として消費税額を調…
消費税の実務
インボイスに書く6つの事項。小売・飲食は簡易な書き方でよい
適格請求書には、発行者の氏名と登録番号、取引年月日、取引内容(軽減税率対象である旨)、税率ごと…
消費税の実務
資本金1,000万円以上で会社を作ると、1期目から消費税を納めます
設立1期目と2期目は基準期間がないので原則は免税ですが、その期の期首の資本金が1,000万円以…