法人
役員報酬は
年に一度しか変えられません。
定期同額給与の3か月ルール
個人事業のころは、自分の取り分をいつ変えても構いませんでした。法人になると、そうはいきません。
役員報酬は、事業年度が始まって3か月以内に決めた金額を、期末まで同じ額で払い続ける。これが原則です。途中で増やすと、増やした部分が損金になりません。知らずに変えている方が、少なくありません。
損金になるのは3種類だけ
法人が役員に払う給与は、原則として次の3つのどれかに当たらないと損金になりません。
国税庁「No.5211 役員に対する給与」概要
法人が役員に対して支給する給与…の額のうち次に掲げる定期同額給与、事前確定届出給与または一定の業績連動給与のいずれにも該当しないものの額は損金の額に算入されません。
ただし、次に掲げる給与のいずれかに該当するものであっても、不相当に高額な部分の金額は、損金の額に算入されません。
「損金にならない」とは、会社としては現金が出ていくのに、経費として認められないということです。しかも受け取った役員のほうでは給与として所得税・住民税がかかります。会社では引けず、個人では課税される。いちばん損な形になります。
ひとり法人で使うのは、ほぼ定期同額給与です。業績連動給与は同族会社では実質使えず、事前確定届出給与は賞与を出すときの選択肢になります。
定期同額給与とは何か
同上 定期同額給与
その支給時期が1か月以下の一定の期間ごとである給与(以下「定期給与」といいます。)で、その事業年度の各支給時期における支給額または支給額から源泉税等の額を控除した金額が同額であるもの
2つの条件があります。毎月払うことと、金額が同じであること。
「支給額から源泉税等の額を控除した金額が同額」という書き方に注目してください。手取りを同額にする方式も認められています。源泉所得税や社会保険料が変わって額面が動いても、手取りが一定なら定期同額給与に当たります。ただし、どちらの方式で通すかは決めておく必要があります。
変えられるのは、この3つの場合だけ
金額を改定できる場面は、国税庁が3つ挙げています。
(1)事業年度開始から3か月以内の改定
同上 定期同額給与 2(1)
その事業年度開始の日の属する会計期間開始の日から3か月(確定申告書の提出期限の特例に係る税務署長の指定を受けた場合にはその指定に係る月数に2を加えた月数)を経過する日(以下「3月経過日等」といいます。)まで…にされる定期給与の額の改定
これが通常の改定です。決算が終わって、新しい期の役員報酬を決める。3月決算なら4月1日から期が始まり、6月30日までに決めて7月支給分から反映させる、という形が一般的です。
| 決算月 | 期首 | 役員報酬を決める期限(3月経過日等) |
|---|---|---|
| 3月 | 4月 | 6月30日 |
| 9月 | 10月 | 12月31日 |
| 12月 | 1月 | 3月31日 |
言い換えると、この期限を逃すと、その期はもう変えられません。1年間、決めた金額のままです。
(2)臨時改定事由
同上 定期同額給与 2(2)
その事業年度においてその法人の役員の職制上の地位の変更、その役員の職務の内容の重大な変更その他これらに類するやむを得ない事情…によりされたこれらの役員に係る定期給与の額の改定
取締役が社長になった、といった地位や職務の変更です。売上が伸びたから、は入りません。
(3)業績悪化改定事由
同上 定期同額給与 2(3)
その事業年度においてその法人の経営状況が著しく悪化したことその他これに類する理由…によりされた定期給与の額の改定(その定期給与の額を減額した改定に限られ…)
下げる方向にしか使えません。そして、ここに重要な注書きが付いています。
「業績が悪いから下げる」は簡単には通りません
同上(注)
法人の一時的な資金繰りの都合や、単に業績目標値に達しなかったことなどはこれに含まれません。
この一文は重いです。「今月は資金繰りが厳しいので役員報酬を減らします」は、業績悪化改定事由に当たりません。「思ったより売れなかった」も同じです。
想定されているのは、経営状況が著しく悪化した場合——たとえば主要な取引先を失った、株主や取引銀行との関係で報酬の減額をせざるを得ない、といった水準です。
ここを軽く見て期の途中で下げると、下げたあとの低いほうの金額を基準に、それを超える部分が損金不算入という扱いになりえます。減額したのに税負担が減らない、という結果になります。
期の途中で上げてしまったら
いちばん多い相談がこれです。3月経過日等を過ぎてから、月20万円を月40万円に上げてしまった。
このとき損金にならないのは、増額した部分です。全額が否認されるわけではありません。7月から翌年3月までの9か月間、毎月20万円ずつの増額なら、180万円が損金不算入になります。
所得400万円以下の中小法人の実効税率をおよそ21%とすると、法人税等がおよそ38万円増える計算です。しかも受け取った側では、その180万円にも所得税・住民税がかかっています。
気づくのは、たいてい決算のときです
期の途中で変えても、その場では何も起きません。翌年の決算で申告書を作る段になって初めて表面化します。そのときにはもう払い終わっているので、戻すことはできません。変える前に確認する以外に、この問題を避ける方法はありません。
では、いくらに決めればいいのか
年に一度しか変えられないということは、1年先を見て決める必要があるということです。見るべき要素は3つあります。
- 法人税と所得税の合計。報酬を上げれば法人の所得は減りますが、個人の所得税・住民税は増えます。両方の合計が小さくなる水準を探すことになります
- 社会保険料。ひとり法人でも社会保険は原則加入で、報酬額に比例して保険料が決まります。会社負担と個人負担を合わせるとおよそ30%なので、税金より効くことがあります
- 会社に残すお金。設備投資や借入返済の予定があれば、会社に残す必要があります。手取りの最大化だけで決めると資金が回らなくなります
そして、報酬を下げれば得、という話でもありません。厚生年金は報酬額に応じて将来の受取額が決まります。目先の負担を小さくすると、将来受け取る額も小さくなります。
当事務所が「いくらが最適です」と一言で言わないのは、この3つ目と、将来の年金までを含めると正解が人によって変わるからです。数字を並べたうえで、どこを取るかを一緒に決めるのが実際のやり方になります。
出典
- 国税庁「No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5211.htm
この記事は、記載時点で公表されている法令・通達・国税庁の資料にもとづいて書いています。制度は改正されることがあり、また個別の事情によって取扱いは変わります。実際のご判断にあたっては、税理士にご相談いただくか、所轄の税務署にお確かめください。当事務所は本記事の情報を用いて行われた判断について責任を負いかねます。
決算月から逆算して、いつまでに決めるかをお伝えします。
役員報酬の決定期限は決算月によって変わります。社会保険料と法人税と所得税の合計が小さくなる水準も、数字をお聞きすれば出せます。期の途中で変えてしまった場合の対応も含めてご相談ください。初回30分は無料です。