不動産
不動産所得の「事業的規模」
(5棟10室)とは
賃貸をしていると必ず出てくるのが「事業的規模」という言葉です。当たるかどうかで、青色申告特別控除も、経費にできる範囲も変わります。
ただし、当たれば得をするとも限りません。個人事業税がかかる場合があります。そして令和9年分からの改正では、業務的規模の方だけに別の例外が置かれました。順に見ていきます。
基準は「5棟10室」。ただし原則は社会通念
国税庁は、不動産貸付けが事業として行われているかどうかについて、こう示しています。
国税庁「No.1373 事業としての不動産貸付けとそれ以外の不動産貸付けとの区分」
原則として社会通念上事業と称するに至る程度の規模で行われているかどうかによって、実質的に判断します。
(1)貸間、アパート等については、貸与することのできる独立した室数がおおむね10室以上であること。
(2)独立家屋の貸付けについては、おおむね5棟以上であること。
これが「5棟10室」と呼ばれているものです。実務では、戸建て1棟をアパート2室に換算して合算する扱いが広く使われています。
ただし読み落としてはいけないのが、その前段です。原則は「社会通念上事業と称するに至る程度の規模」で実質的に判断するとされていて、5棟10室はそれを形式的に判定するための目安として置かれています。「おおむね」という言葉も入っています。
ですから、9室でも事業的規模と認められる可能性はありますし、逆もあります。室数だけで機械的に決まるものではありません。
事業的規模になると使えるようになるもの
| 事業的規模 | 業務的規模(それ以外) | |
|---|---|---|
| 青色申告特別控除 | 最大65万円 | 最大10万円 |
| 青色事業専従者給与 | 経費にできる | できない |
| 取壊し・除却などの資産損失 | 全額を必要経費に | その年の不動産所得を限度 |
| 回収できない家賃(貸倒損失) | その年の必要経費に | 収入計上した年に遡って訂正 |
いちばん大きいのは青色申告特別控除の55万円の差ですが、家族に給与を出せるようになる効果のほうが大きい方もいます。空室や滞納が出たときの扱いが変わるのも、実際には効いてきます。
増えるほうの話:個人事業税
ここが、あまり一緒に説明されないところです。事業的規模になると、個人事業税がかかる場合があります。
不動産貸付業は個人事業税の法定業種で、税率は5%。事業主控除が年290万円あるため、所得が290万円以下なら結果として課税されません。超えた部分に5%がかかります。
注意していただきたいのは、個人事業税は都道府県の税だということです。課税の基準は都道府県ごとに定められていて、所得税の事業的規模の判定と必ずしも一致しません。所得税では事業的規模でなくても事業税が課される、という組み合わせもあり得ます。
「65万円控除になるから得」だけでは片手落ちです
たとえば所得税・住民税が年16万円ほど下がる一方で、個人事業税が年10万円ほど発生すれば、正味では6万円ほどの改善にとどまります。両方を並べないと、判断できません。そのうえで、専従者給与を出せるようになる効果を足すと結論が変わることもあります。
令和9年分からの改正で、業務的規模の方はどうなるか
令和8年度税制改正で、青色申告特別控除の区分が組み替えられました。適用は令和9年分の所得税からです。令和9年分から青色申告特別控除が最大75万円にに全体をまとめていますが、不動産所得だけに例外が置かれています。
国税庁「令和9年分から青色申告特別控除はどう変わる?」(※1)
不動産所得に関しては、収入区分が1,000万円超である場合、事業的規模の方のみ控除対象外となり、業務的規模の方は、改正前と同様に最大10万円の控除を受けることができます。
なお、業務的規模の方は、複式簿記に移行したとしても、控除額は簡易簿記の場合と同様に最大10万円となります。
読み取れることは2つあります。
- 業務的規模の方は、前々年の家賃収入が1,000万円を超えても控除が0円になることはありません。これまでどおり最大10万円です
- ただし業務的規模のままなら、複式簿記に移行しても控除額は最大10万円です。65万円も75万円も取れません
つまり賃貸オーナーにとって、この改正でいちばん効いてくるのは電子化ではありません。そもそも事業的規模に当たるかどうかです。「令和9年から最大75万円」という見出しだけを見て複式簿記に切り替えても、業務的規模のままなら控除額は変わらず、手間だけが増えます。
どちらか分からないときは
判定でつまずきやすいのは、次のようなところです。
- 複数の物件をお持ちの場合——合算して数えます。単体では届かなくても、合わせると届くことがあります
- 共有の物件——持分ではなく、物件全体の室数で見る扱いが一般的です
- 駐車場——上記のNo.1373に駐車場の基準は書かれていません。実務では5台を1室相当として扱う例がありますが、国税庁が公表している基準ではないため、個別に判断が必要です
- 年の途中で買った・売った場合——その年の判定をどうするか
そして、事業的規模かどうかが決まらないと、青色申告特別控除の額も、専従者給与を出せるかどうかも、個人事業税がかかるかどうかも決まりません。ここが決まらないと、他のことが何も決まらないという順番になっています。
出典
- 国税庁「No.1373 事業としての不動産貸付けとそれ以外の不動産貸付けとの区分」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1373.htm - 国税庁「令和9年分から青色申告特別控除はどう変わる?」(令和8年4月)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/kojin_jigyo/0026004-012.pdf(PDF)
この記事は、記載時点で公表されている法令・通達・国税庁の資料にもとづいて書いています。制度は改正されることがあり、また個別の事情によって取扱いは変わります。実際のご判断にあたっては、税理士にご相談いただくか、所轄の税務署にお確かめください。当事務所は本記事の情報を用いて行われた判断について責任を負いかねます。
室数と実態を見て、事業税まで含めて判断します。
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