インボイス
インボイスがなくても
控除できる場合があります。
帳簿だけで済む9つの取引
インボイス制度が始まってから、「領収書がもらえない支払いはどうするのか」という質問が増えました。
電車賃、自動販売機、出張の日当。答えは国税庁が示しています。これらは帳簿の保存だけで仕入税額控除が認められます。9つの類型と、金額による特例を整理します。
原則は、帳簿と請求書等の両方
国税庁「No.6496 仕入税額控除をするための帳簿及び請求書等の保存」概要
課税仕入れ等に係る消費税額を控除するには、その事実を記載し、区分経理に対応した帳簿および事実を証する請求書等の両方を保存する必要があります。この請求書等には、適格請求書、適格簡易請求書のほか、仕入明細書等やそれらの電磁的記録を含みます。
両方です。領収書だけ集めていても、帳簿がなければ控除できません。逆に帳簿だけでも足りません。
そのうえで国税庁は、「取引の実態を踏まえ、次の特例的な取扱いがあります」として、帳簿だけでよい場合を挙げています。
帳簿だけでよい9つの取引
同上 帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる場合
請求書等の交付を受けることが困難であると認められる次の取引(課税仕入れ)については、一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められます。
① 適格請求書の交付義務が免除される3万円未満の公共交通機関による旅客の運送
② 適格簡易請求書の記載事項(取引年月日を除きます。)が記載されている入場券等が使用の際に回収される取引
③ 古物営業を営む者の適格請求書発行事業者でない者からの古物の購入
④ 質屋を営む者の適格請求書発行事業者でない者からの質物の取得
⑤ 宅地建物取引業を営む者の適格請求書発行事業者でない者からの建物の購入
⑥ 適格請求書発行事業者でない者からの再生資源及び再生部品の購入
⑦ 適格請求書の交付義務が免除される3万円未満の自動販売機及び自動サービス機からの商品の購入等
⑧ 適格請求書の交付義務が免除される郵便切手類のみを対価とする郵便・貨物サービス(郵便ポストに差し出されたものに限ります。)
⑨ 従業員等に支給する通常必要と認められる出張旅費等(出張旅費、宿泊費、日当及び通勤手当)
ふだんの経理で効いてくるのは、①⑦⑧⑨です。
① 3万円未満の公共交通機関
電車やバスの運賃です。切符を買って乗る分には領収書が要りません。ただし3万円未満という上限があり、また「公共交通機関」なのでタクシーは含まれません。タクシー代は原則どおりインボイスが必要です。
⑦ 3万円未満の自動販売機・自動サービス機
自販機の飲み物のほか、コインパーキングやコインランドリーもここに入ると整理されています。帳簿に「自動販売機」といった記載と、住所や場所の記載が求められます。
⑧ ポストに投函した郵便
切手を貼ってポストに入れる郵便です。窓口で出して領収書をもらう場合は、この類型ではありません。
⑨ 出張旅費・宿泊費・日当・通勤手当
従業員に支給するものが対象です。日当のように領収書が存在しない支給についても、「通常必要と認められる」範囲であれば帳簿だけで控除できます。
③④⑤⑥は、業種が限られます
古物商、質屋、宅建業者、再生資源の取扱業者。いずれも「その業を営む者」で、かつ「棚卸資産に該当するもの」に限られます。リサイクルショップが個人から中古品を買い取るような場面を想定したものです。一般の事業者が中古品を買っても、この類型には当たりません。
税込1万円未満の少額特例
もうひとつ、規模の小さい事業者のための特例があります。
同上 2
基準期間における課税売上高が1億円以下または特定期間における課税売上高が5,000万円以下の事業者が、令和5年10月1日から令和11年9月30日までの間に行った課税仕入れについて、その金額が税込1万円未満であるものについては、一定の事項が記載された帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められます。
これが実務ではいちばん効きます。税込1万円未満なら、相手が誰であっても、インボイスがなくても帳簿だけで控除できます。
条件は基準期間の課税売上高1億円以下、または特定期間の課税売上高5,000万円以下。個人事業主やひとり法人なら、まず該当します。(基準期間・特定期間の考え方は消費税の1,000万円の記事にまとめました。)
この特例は令和11年9月30日で終わります
経過措置と同じ日に終期が設定されています。それ以降は、1万円未満の少額な支払いでもインボイスが必要になります。いまのうちに、少額の仕入先についても登録状況を把握しておくと、そのときに慌てずに済みます。
なお「1万円未満」は1回の取引の金額で判定します。1個3,000円の商品を4個まとめて買って12,000円なら、1万円以上として扱われます。商品ごとではなく、その取引の合計で見ます。
保存期間は7年
同上 概要
課税仕入れ等の事実を記載した帳簿、請求書等は、帳簿についてはその閉鎖の日、請求書等についてはその受領した日の属する課税期間の末日の翌日から2か月を経過した日から7年間保存することとされていますが、6年目と7年目については、いずれか一方を保存すればよいこととされています。
起算日が独特です。「課税期間の末日の翌日から2か月を経過した日から7年間」なので、実質的には8年近く手元に残ることになります。
6年目と7年目は帳簿か請求書等のどちらか一方でよい、という緩和もあります。とはいえ、電子で保存していれば場所を取らないので、まとめて残しておくほうが管理は楽です。
実務でどう回すか
ここまでを踏まえると、日々の経理はこう整理できます。
| 支払いの種類 | 領収書・請求書 | 備考 |
|---|---|---|
| 税込1万円未満 | 不要(帳簿のみ) | 売上1億円以下などの条件あり。令和11年9月30日まで |
| 電車・バス(3万円未満) | 不要(帳簿のみ) | タクシーは対象外 |
| 自販機・コインパーキング(3万円未満) | 不要(帳簿のみ) | 場所の記載が必要 |
| 従業員への出張旅費・日当 | 不要(帳簿のみ) | 通常必要と認められる範囲 |
| それ以外 | 必要 | 登録していない相手なら経過措置 |
結論として、少額の支払いに神経を使う必要はあまりありません。1万円未満は帳簿だけで済み、交通費や自販機も対象外です。
力を入れるべきは、金額の大きい仕入れと外注のほうです。そこでインボイスを取り損ねると、控除できない金額がそのまま効いてきます。
そして、どの類型に当てはまるかを毎回判断するのは現実的ではありません。会計ソフトの税区分を最初に正しく設定しておけば、あとは日々の入力で自動的に振り分けられます。設定を組むところだけ手を掛けて、運用は軽くする。これが実務的な落としどころです。
出典
- 国税庁「No.6496 仕入税額控除をするための帳簿及び請求書等の保存」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6496.htm - 国税庁「No.6498 適格請求書等保存方式(インボイス制度)」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6498.htm
この記事は、記載時点で公表されている法令・通達・国税庁の資料にもとづいて書いています。制度は改正されることがあり、また個別の事情によって取扱いは変わります。実際のご判断にあたっては、税理士にご相談いただくか、所轄の税務署にお確かめください。当事務所は本記事の情報を用いて行われた判断について責任を負いかねます。
どこまで領収書を集めるべきか、線を引きます。
全部集めようとすると疲れますし、集めなくてよいものもあります。事業の内容を伺えば、何を残して何を残さなくてよいかをお伝えできます。記帳ごとお引き受けすることもできます。初回30分は無料です。