消費税
免税から課税事業者になった年は、期首の在庫の消費税を引けます。
棚卸資産の調整と7年保存
インボイス登録で免税から課税事業者になった方の初年度の申告で、いちばん見落とされているのが、この調整です。
課税事業者になった日の前日に持っていた在庫は、免税だった期間に仕入れたものです。その仕入れにかかった消費税は、免税期間中は控除できていません。それを課税事業者になった最初の期に控除できるという仕組みです。在庫を持つ商売なら、初年度の納税額がはっきり変わります。
この記事の要点
免税事業者が課税事業者になるとき、前日に持っていた在庫のうち免税期間中に仕入れたものは、課税初年度の仕入税額控除に加えられます。取得価額に110分の7.8(軽減税率は108分の6.24)を掛けた金額です。逆に課税から免税になるときは、その期に仕入れた在庫の分を控除から外します。明細の7年保存が条件です。国税庁タックスアンサーNo.6491をもとに整理しました。
免税と課税を行き来するときに、在庫の消費税を調整する
免税事業者が課税事業者になったとき、また課税事業者が免税事業者になったときは、棚卸資産(在庫)に含まれる消費税について、仕入税額控除の調整が必要です。免税の期間に仕入れた在庫を課税の期間に売る、あるいはその逆が起きると、控除の時期と売上の時期がずれるからです。
国税庁 タックスアンサー No.6491「免税事業者が課税事業者となった場合等の棚卸資産に係る仕入控除税額の調整」
免税事業者が課税事業者となった場合または課税事業者が免税事業者になった場合には、棚卸資産に係る課税仕入れ等の税額について、仕入控除税額の調整が必要になります。
方向によって、納税者に有利な調整と不利な調整があります。免税→課税は控除が増える(有利)、課税→免税は控除が減る(不利)。どちらも「必要になります」と書かれていて、任意ではありません。有利なほうを忘れると損をし、不利なほうを忘れると過少申告になります。
免税→課税:前日の在庫の消費税を、初年度の控除に加える
免税事業者が課税事業者になる日の前日に持っている在庫のうち、免税期間中に仕入れたものについては、その仕入れにかかった消費税を、課税事業者になった課税期間の課税仕入れ等の税額とみなします。つまり初年度の仕入税額控除に加算できます。
国税庁 タックスアンサー No.6491「免税事業者が課税事業者となった場合等の棚卸資産に係る仕入控除税額の調整」
免税事業者が課税事業者となる日の前日において所有する棚卸資産のうち、免税事業者であった期間中の課税仕入れ等に係るものがある場合は、その棚卸資産についての課税仕入れ等の税額は、課税事業者となった課税期間の仕入控除税額の計算の基礎となる課税仕入れ等の税額とみなします。
個人事業者が令和8年からインボイス登録で課税事業者になったなら、令和7年12月31日時点の在庫が対象です。法人なら、課税事業者になった事業年度の期首の前日の在庫です。その日の棚卸表が、そのまま調整の根拠になります。棚卸をしていなかった、あるいは在庫表を残していなかった場合は、この調整を受けられません。
在庫を多く持つ業種(小売、卸、製造、建設の材料、飲食の食材)では、初年度の納税額に直接効いてきます。逆にサービス業で在庫がなければ、この調整は出てきません。
課税→免税:その期に仕入れた在庫の分を、控除から外す
反対に、課税事業者が免税事業者になる場合は、免税になる日の前日に持っている在庫のうち、その前日の属する課税期間中に仕入れたものの消費税は、その期の仕入税額控除から外します。
国税庁 タックスアンサー No.6491「免税事業者が課税事業者となった場合等の棚卸資産に係る仕入控除税額の調整」
課税事業者が免税事業者となる日の前日において所有する棚卸資産のうち、その免税事業者となる日の前日の属する課税期間中に仕入れた棚卸資産についての課税仕入れ等の税額は、その課税期間における仕入控除税額の計算の基礎となる課税仕入れ等の税額に含めません。
売上が落ちて基準期間の課税売上高が1,000万円以下になり免税に戻る、あるいはインボイス登録を取り消して免税に戻る、といった場面です。課税事業者としての最後の期に仕入れて期末に残っている在庫は、免税期間に売ることになるので、その分の控除は認められません。
対象は「その課税期間中に仕入れた」在庫に限られます。前の期から繰り越してきた在庫は対象になりません。ここは免税→課税の場合(免税期間中に仕入れたものすべて)と範囲が違いますので、混同しないでください。
対象になる棚卸資産と、取得価額の範囲
調整の対象になる棚卸資産は、商品、製品、半製品、仕掛品、原材料、貯蔵中の消耗品などで、現に所有しているものです。
国税庁 タックスアンサー No.6491「免税事業者が課税事業者となった場合等の棚卸資産に係る仕入控除税額の調整」
この対象となる棚卸資産は、商品、製品、半製品、仕掛品、原材料、貯蔵中の消耗品等で、現に所有しているものをいいます。
この場合の棚卸資産の取得価額には、その棚卸資産の購入金額のほかに、引取運賃や荷造費用、そのほかこれを購入するために要した費用の額などが含まれます。
取得価額には、購入代金だけでなく引取運賃や荷造費用など、購入のためにかかった費用も含みます。会計上の棚卸資産の評価額と同じ考え方です。なお、固定資産(建物・車両・備品)は棚卸資産ではないので、この調整の対象になりません。固定資産には別の調整の仕組みがあります。
計算式:110分の7.8、軽減税率は108分の6.24
調整する消費税額は、棚卸資産の取得価額(税込)に110分の7.8を掛けた金額です。軽減税率(8%)の対象になる棚卸資産は108分の6.24を掛けます。
国税庁 タックスアンサー No.6491「免税事業者が課税事業者となった場合等の棚卸資産に係る仕入控除税額の調整」
仕入税額控除の対象とすることができる棚卸資産の消費税額の計算は、その棚卸資産の取得価額に110分の7.8(軽減税率の適用対象となる棚卸資産については108分の6.24)を掛けた金額となります。
110分の7.8は、消費税10%のうち国税部分(7.8%)を取り出す計算です。地方消費税(2.2%)は申告書の中で国税額から計算されますので、ここでは国税部分だけを求めます。飲食料品を扱う方は、在庫表を標準税率と軽減税率に分けて集計しておく必要があります。
免税事業者から仕入れた在庫は80%・50%で計算
インボイスのない仕入先(免税事業者など)から仕入れた在庫は、経過措置により控除できる割合が制限されています。No.6491の注は、免税事業者になる場合の調整について、令和5年10月1日から令和8年9月30日までの仕入れは80%、令和8年10月1日から令和11年9月30日までの仕入れは50%を掛けて計算する、としています。
国税庁 タックスアンサー No.6491「免税事業者が課税事業者となった場合等の棚卸資産に係る仕入控除税額の調整」
免税事業者となる場合に、適格請求書発行事業者以外の者から行った課税仕入れに係る税額控除に関する経過措置(いわゆる80%控除、50%控除)の適用を受けていた棚卸資産を有している場合には、その棚卸資産について調整する課税仕入れ等の税額は、令和5年10月1日から令和8年9月30日までに仕入れた棚卸資産であれば、その80%を、令和8年10月1日から令和11年9月30日までに仕入れた棚卸資産であれば、その50%を掛けて計算します。
在庫表に「仕入先がインボイス登録事業者かどうか」の区分が要る、ということです。仕入先ごとにインボイスの有無を記録していない在庫表では、この計算ができません。免税事業者からの仕入れが多い業種(古物、農産物、個人からの仕入れ)は、在庫表の作り方から見直してください。
明細書類の7年保存と、簡易課税のときの扱い
免税→課税の調整を受けるには、対象になる棚卸資産の明細を記録した書類を、作成した日の属する課税期間の末日の翌日から2か月を経過した日から7年間保存しなければなりません。
国税庁 タックスアンサー No.6491「免税事業者が課税事業者となった場合等の棚卸資産に係る仕入控除税額の調整」
この調整措置の適用を受けるためには、その対象となる棚卸資産の明細を記録した書類をその作成した日の属する課税期間の末日の翌日から2か月を経過した日から7年間保存しなければなりません。
もう一つ、簡易課税を選んでいる場合の扱いです。No.6491は、免税事業者になる場合について「免税事業者となる課税期間の直前の課税期間において簡易課税制度の適用を受けるときは、仕入控除税額の調整を行う必要はありません」としています。簡易課税は実際の仕入れを見ずにみなし仕入率で控除を計算するので、在庫の調整という概念がないためです。
同じ理由で、免税から課税になった初年度に簡易課税を選んでいる場合も、この調整(控除の加算)は使えません。在庫が多い方が課税初年度に簡易課税を選ぶと、この加算を取り損ねることになります。簡易課税と本則課税のどちらが有利かを計算するとき、初年度に限ってはこの調整額も比較に入れてください。
令和8年から課税事業者になった方は、初年度の申告を確認してください
この調整は申告書の付表で行いますが、会計ソフトの自動計算には出てきません。期首在庫の税額を手で加える必要があります。既に申告を出していて調整が入っていない場合、更正の請求で還付を受けられる可能性があります。棚卸表が残っていることが条件です。
よくある質問
免税事業者から課税事業者になったとき、在庫の消費税はどうなりますか
免税事業者が課税事業者になったとき、また課税事業者が免税事業者になったときは、棚卸資産(在庫)に含まれる消費税について、仕入税額控除の調整が必要です。免税の期間に仕入れた在庫を課税の期間に売る、あるいはその逆が起きると、控除の時期と売上の時期がずれるからです。→ 本文で読む
課税事業者になった初年度に、期首の在庫の消費税を控除できますか
免税事業者が課税事業者になる日の前日に持っている在庫のうち、免税期間中に仕入れたものについては、その仕入れにかかった消費税を、 課税事業者になった課税期間の課税仕入れ等の税額とみなします 。つまり初年度の仕入税額控除に加算できます。→ 本文で読む
課税事業者から免税事業者になるとき、在庫の消費税はどう調整しますか
反対に、課税事業者が免税事業者になる場合は、免税になる日の前日に持っている在庫のうち、 その前日の属する課税期間中に仕入れたもの の消費税は、その期の仕入税額控除から外します。 売上が落ちて基準期間の課税売上高が1,000万円以下になり免税に戻る、あるいはインボイス登録を取り消して免税に戻る、といった場面です。課税事業者としての最後の期に仕入れて期末に残っている在庫は、免税期間に売ることになるので、その分の控除は認められません。→ 本文で読む
棚卸資産の調整の対象になるのはどんな資産ですか
調整の対象になる棚卸資産は、商品、製品、半製品、仕掛品、原材料、貯蔵中の消耗品などで、 現に所有しているもの です。 取得価額には、購入代金だけでなく引取運賃や荷造費用など、購入のためにかかった費用も含みます。会計上の棚卸資産の評価額と同じ考え方です。なお、固定資産(建物・車両・備品)は棚卸資産ではないので、この調整の対象になりません。固定資産には別の調整の仕組みがあります。→ 本文で読む
棚卸資産の消費税額はどう計算しますか
調整する消費税額は、棚卸資産の取得価額(税込)に 110分の7.8 を掛けた金額です。軽減税率(8%)の対象になる棚卸資産は 108分の6.24 を掛けます。 110分の7.8は、消費税10%のうち国税部分(7.8%)を取り出す計算です。地方消費税(2.2%)は申告書の中で国税額から計算されますので、ここでは国税部分だけを求めます。飲食料品を扱う方は、在庫表を標準税率と軽減税率に分けて集計しておく必要があります。→ 本文で読む
棚卸資産の調整を受けるための書類は、何年保存しますか
免税→課税の調整を受けるには、対象になる棚卸資産の明細を記録した書類を、 作成した日の属する課税期間の末日の翌日から2か月を経過した日から7年間 保存しなければなりません。 もう一つ、 簡易課税を選んでいる場合 の扱いです。No.6491は、免税事業者になる場合について「免税事業者となる課税期間の直前の課税期間において簡易課税制度の適用を受けるときは、仕入控除税額の調整を行う必要はありません」としています。簡易課税は実際の仕入れを見ずにみなし仕入率で控除を計算するので、在庫の調整という概念がないためです。→ 本文で読む
出典
- 国税庁「No.6491 免税事業者が課税事業者となった場合等の棚卸資産に係る仕入控除税額の調整」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6491.htm
この記事は、記載時点で公表されている法令・通達・国税庁の資料にもとづいて書いています。制度は改正されることがあり、また個別の事情によって取扱いは変わります。実際のご判断にあたっては、税理士にご相談いただくか、所轄の税務署にお確かめください。当事務所は本記事の情報を用いて行われた判断について責任を負いかねます。
課税事業者になった初年度の申告は、この調整を入れてから出してください。
期首の在庫表と仕入先ごとのインボイスの有無をお預かりすれば、調整額を計算して申告書に反映します。既に出した申告に入っていなければ、更正の請求もご相談ください。
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