美容師
面貸しの報酬は
事業所得か給与か。
契約書の名前では
決まりません
サロンと「業務委託契約」を結んでいる。だから事業所得。——そうとは限りません。
国税庁が見るのは契約書の名前ではなく、実際にどう働いているかです。時間を指定されているか、指示を受けているか、道具は誰のものか。判定の手がかりになる5つの項目を、通達から確認します。
この記事の要点
面貸し・業務委託の美容師が受け取る報酬は、事業所得か給与所得か。「業務委託契約書」を交わしていても、それだけでは決まりません。国税庁が建設業について示した5つの判定項目を手がかりに、何を見て判定されるのかを整理します。
なぜ区分が問題になるのか
同じ金額を受け取っても、事業所得か給与所得かで手取りが変わります。
| 事業所得 | 給与所得 | |
|---|---|---|
| 経費 | 実際にかかった額を引ける | 給与所得控除(決まった額) |
| 青色申告特別控除 | 最大65万円 | 使えません |
| 赤字が出たとき | 他の所得と損益通算できる | そもそも赤字になりません |
| 消費税 | 売上が基準を超えると納税義務が出ます | 対象外 |
| 申告 | 確定申告が必要 | 年末調整で完結することが多い |
どちらが有利かは一概に言えません。経費が多ければ事業所得、少なければ給与所得控除のほうが大きいこともあります。
ただし有利なほうを選べるものではありません。実態で決まります。ここが大事なところです。
国税庁が示した5つの項目
国税庁は建設業について、判定のしかたを通達で示しています。
国税庁「大工、左官、とび職等の受ける報酬に係る所得税の取扱いについて(法令解釈通達)」
その区分が明らかでないときは、例えば、次の事項を総合勘案して判定するものとする。
(1)他人が代替して業務を遂行すること又は役務を提供することが認められるかどうか。
(2)報酬の支払者から作業時間を指定される、報酬が時間を単位として計算されるなど時間的な拘束(業務の性質上当然に存在する拘束を除く。)を受けるかどうか。
(3)作業の具体的な内容や方法について報酬の支払者から指揮監督(業務の性質上当然に存在する指揮監督を除く。)を受けるかどうか。
(4)まだ引渡しを了しない完成品が不可抗力のため滅失するなどした場合において、自らの権利として既に遂行した業務又は提供した役務に係る報酬の支払を請求できるかどうか。
(5)材料又は用具等(くぎ材等の軽微な材料や電動の手持ち工具程度の用具等を除く。)を報酬の支払者から供与されているかどうか。
読み方の要点は「総合勘案」です。ひとつ当てはまったから給与、ということではなく、全体を見て判断します。
美容師に当てはめると
| 項目 | 事業所得に近い | 給与所得に近い |
|---|---|---|
| (1) 代替できるか | 自分が行けない日に、代わりの人を立ててよい | 本人が施術することが前提 |
| (2) 時間の拘束 | 出勤時間が自由。報酬は売上に応じた歩合 | シフトを決められる。時給で計算される |
| (3) 指揮監督 | 施術の方法や接客を自分で決められる | 店のマニュアルに従う。指示を受ける |
| (4) 報酬の請求 | お客様が来なければ収入がない(自分のリスク) | 客数に関係なく最低保証がある |
| (5) 道具・材料 | シザー・薬剤・タオルを自分で用意 | 店のものを使う |
面貸しでも給与と判定されることがあります
「面貸し」「業務委託」という呼び方をしていても、シフトを決められ、店の薬剤を使い、時給に近い形で払われているなら、実態は雇用に近いと見られます。
契約書の題名は判定の材料のひとつでしかありません。逆に、席の使用料を払って自分の道具と薬剤で施術し、売上に応じて受け取っているなら、事業所得の性格が強くなります。
美容師についての直接の通達はありません
正直に書きます。上に引いた通達は「大工、左官、とび職等」を対象にしたもので、美容師について直接書かれたものではありません。
ただし、この通達が示しているのは請負か雇用かを見分けるための考え方そのものです。国税庁は同じ通達の中で、こう書いています。
同上
……雇用契約又はこれに準ずる契約に基づく役務の提供の対価は、事業所得に該当せず、給与所得に該当する。
この線引き自体は業種を問いません。だから美容師の場合も、同じ観点で見られると考えるのが自然です。
とはいえこれは通達の直接の適用ではありません。個別の事情によって結論が変わりうるところなので、判断に迷う場合は所轄の税務署か税理士にご確認ください。
区分が変わると何が変わるか
「給与だと思っていたら事業所得だった」という場合、次のことが起きます。
| 確定申告 | 必要になります。年末調整では終わりません |
|---|---|
| 帳簿 | 記帳と保存が必要になります。青色申告にすれば控除も使えます |
| 消費税 | 売上が基準を超えると納税義務が出ます |
| 経費 | シザーや講習費が経費にできます |
逆に「事業所得として申告していたら給与だった」場合は、サロン側に源泉徴収の義務が出てきます。ご自身だけの問題ではありません。
どうすればよいか
| 1 | 契約書を確認する。ただし題名ではなく中身を見ます。時間の拘束、指示、道具の負担がどう書かれているか |
|---|---|
| 2 | 実際の働き方と照らす。契約書と実態がずれている場合、見られるのは実態のほうです |
| 3 | サロンから何をもらっているか確認する。支払調書が来るのか、源泉徴収票が来るのか。ここに相手方の認識が出ます |
| 4 | 迷ったら、判定を決めつけずにご相談ください。両方で試算して比べます |
いちばん避けたいのは、よく分からないまま何年も申告しない状態です。あとから指摘されると、加算税と延滞税が乗ります。無申告のペナルティもあわせてご覧ください。
よくある質問
面貸し美容師の報酬は事業所得ですか、給与ですか?
どちらが有利かは一概に言えません。 経費が多ければ事業所得、少なければ給与所得控除のほうが大きいこともあります。 ただし 有利なほうを選べるものではありません。 実態で決まります。ここが大事なところです。→ 本文で読む
美容師についての直接の通達はありますか?
正直に書きます。 上に引いた通達は「大工、左官、とび職等」を対象にしたもので、美容師について直接書かれたものではありません。 ただし、この通達が示しているのは 請負か雇用かを見分けるための考え方 そのものです。国税庁は同じ通達の中で、こう書いています。→ 本文で読む
面貸しの美容師はどうすればよいですか?
いちばん避けたいのは、 よく分からないまま何年も申告しない状態 です。あとから指摘されると、加算税と延滞税が乗ります。 無申告のペナルティ もあわせてご覧ください。→ 本文で読む
出典
- 国税庁「大工、左官、とび職等の受ける報酬に係る所得税の取扱いについて(法令解釈通達)」
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/shotoku/shinkoku/091217/01.htm - 国税庁「No.1400 給与所得」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1400.htm - 国税庁「No.1350 事業所得の課税のしくみ(事業所得)」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1350.htm
この記事は、記載時点で公表されている法令・通達・国税庁の資料にもとづいて書いています。制度は改正されることがあり、また個別の事情によって取扱いは変わります。実際のご判断にあたっては、税理士にご相談いただくか、所轄の税務署にお確かめください。当事務所は本記事の情報を用いて行われた判断について責任を負いかねます。
契約書と実態の両方を見て判定します。
契約書、報酬の決まり方、シフトの入れ方、道具や薬剤を誰が用意しているか。実際の働き方をお聞きして、どちらに当たるかをご説明します。判定が変われば申告のしかたも変わるので、早めにご相談ください。初回30分は無料です。