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法人

短期前払費用。
家賃1年分を前払いして経費にする条件は「1年以内」と「毎年続ける」です

決算間際に「来期分の家賃を今期のうちに払って経費にできますか」と聞かれることがあります。答えは「条件つきでできます」です。

その条件は国税庁のタックスアンサーNo.5380に短く書かれていますが、短いぶん読み落とすと否認されるところが2か所あります。「支払った日から1年以内」と「継続して」です。

公開 最終更新

この記事の要点

前払費用は本来、サービスを受けたときに経費になります。ただし支払日から1年以内に受けるサービスの分を、毎期続けて支払時に経費にしているなら、払った期の損金にできます。借入金の利子など収益と対応させるものは対象外です。国税庁タックスアンサーNo.5380(法人税基本通達2-2-14)にもとづいて整理しました。

前払費用の原則:サービスを受けたときに経費

前払費用とは、契約にもとづいて継続的にサービスを受けるために支払った費用のうち、期末の時点でまだ受けていないサービスに対応する部分です。原則として、支払ったときは資産(前払費用)に計上し、サービスを受けたときに損金になります。

国税庁 タックスアンサー No.5380「短期前払費用として損金算入ができる場合」

前払費用とは、法人が一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した費用のうち、その事業年度終了の時においてまだ提供を受けていない役務に対応するものをいいます。
前払費用は、原則として、支出した時に資産に計上し、役務の提供を受けた時に損金の額に算入すべきものです。

たとえば3月決算の会社が、3月に4月分の家賃を払ったとします。4月分の家賃は、4月にオフィスを使うことへの対価です。3月末の時点ではまだ使っていませんから、原則では3月の損金にはならず、翌期の損金です。

ここで大事なのは、前払費用の定義に「継続的に役務の提供を受ける」とあることです。家賃、保険料、保守料、リース料のように、時間の経過にしたがってサービスを受け続ける契約が対象です。物の購入代金や、特定の作業に対する報酬の前払いは、ここでいう前払費用ではありません。

短期前払費用の特例:支払日から1年以内なら支払時に損金

原則に対する例外が、短期前払費用です。支払った日から1年以内に受けるサービスの分を支払ったとき、その額を毎期継続して支払った期の損金にしているなら、支払時点での損金算入が認められます。

国税庁 タックスアンサー No.5380「短期前払費用として損金算入ができる場合」

法人が、前払費用の額で、その支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合において、その支払った額に相当する金額を継続してその支払った日の属する事業年度の損金の額に算入しているときは、上記の「前払費用」にかかわらず、その支払時点で損金の額に算入することが認められます。

要件を分解すると3つです。

  • 前払費用であること … 継続的なサービスの対価で、期末時点で未提供の部分
  • 支払った日から1年以内に受けるサービスの分であること … 「期末から1年」ではなく「支払日から1年」
  • 継続して、支払った期の損金にしていること … 会計処理として毎期同じやり方を続けている

「支払った日から1年以内」という起算点は、実務で間違えやすいところです。3月決算の会社が3月25日に「4月から翌年3月まで」の1年分を払えば、支払日から1年以内に収まります。しかし3月25日に「5月から翌年4月まで」の分を払うと、翌年4月分は支払日から1年を超えます。1年を超える部分があると、その部分だけでなく全体が特例の対象外と扱われるのが一般的な解釈ですので、支払時期と対象期間は慎重に合わせてください。

「継続して」の意味。今年だけやると通りません

この特例は、毎期同じ処理を続けることが前提です。利益が出た年だけ1年分を前払いして損金にし、利益が出ない年は月払いに戻す、という使い方は「継続して損金の額に算入している」に当たりません。

言い換えると、短期前払費用は「今期の利益を来期に移す」効果しかありません。初年度は12か月分に前払いの12か月分が加わって最大24か月分が損金になりますが、翌期以降は毎年12か月分に戻ります。節税になるのは切り替えた最初の期だけです。しかもその後は毎年、決算前にまとまった現金が出ていきます。

「利益を後ろに送る」だけの手段だと理解してから使ってください

切り替えた期に損金が増えたぶん、翌期以降の損金が減るわけではありません(毎年12か月分は損金です)。しかし切り替えを止めた期には、月払いに戻った12か月分しか損金になりません。つまり増えた損金は、やめたときに取り戻されます。資金繰りに余裕があって、その契約を長く続けることが確実な場合に限って意味があります。

対象になる費用と、ならない費用

No.5380は、対象外になる費用として「収益の計上と対応させる必要があるもの」を挙げています。例に出ているのは、借入金を預金や有価証券などで運用する場合の、その借入金の支払利子です。

国税庁 タックスアンサー No.5380「短期前払費用として損金算入ができる場合」

ただし、借入金を預金、有価証券などに運用する場合のその借入金に係る支払利子のように、収益の計上と対応させる必要があるものについては、たとえ1年以内の短期前払費用であっても、支払時点で損金の額に算入することは認められませんので注意してください。

借りたお金を運用して利息収入を得ているなら、その借入利子は利息収入と期間を合わせて計上すべきだ、という考え方です。同じように、特定の売上に直接ひもづく費用は、前払いしても支払時の損金にはできません。

実務で対象になりやすいものと、ならないものを並べます。

費用短期前払費用の対象になるか理由
事務所・店舗の家賃(年払い)対象になりうる時間の経過で受ける役務。契約を年払いにしていること
損害保険料・生命保険料(年払い)対象になりうる同上。ただし保険の種類で資産計上が要るものは別
システムの保守料・サブスクリプション(年払い)対象になりうる継続的な役務であること。単発の作業は不可
運用目的の借入金の利子対象外収益と対応させる必要がある(No.5380の例示)
商品の仕入代金の前払い対象外役務の提供ではなく、棚卸資産の取得
広告の掲載料(掲載時期が特定される)対象外になりやすい時間の経過ではなく、特定の掲載という役務への対価

実務で否認される3つのパターン

要件は3つしかないのに、否認される例はあります。よくあるのは次の形です。

1つめは、契約が月払いのまま、支払だけ1年分をまとめたケース。前払費用は「一定の契約に基づき」支払うものです。契約書が月払いで、家主に頼んで先に1年分を受け取ってもらっただけでは、「1年分を前払いする契約」とは言えません。年払いに変えるなら、契約書か覚書を年払いに書き換えます。

2つめは、支払日から1年を超える期間を含んでいたケース。「翌期の1年分」のつもりで、実際は13か月分を払っていた、というものです。支払日と対象期間の終わりを、暦で数えてください。

3つめは、支払が期末までに完了していなかったケース。「支払った場合」が要件ですから、期末時点で未払いなら特例は使えません。振込予約をしただけで、実際の振込日が翌期初になっていた例があります。

金額の大きい前払いは、それだけで調査官の目に留まります

売上に比べて不釣り合いに大きな家賃や保険料を、決算月に一括で払っている場合、上の3点は必ず確認されます。契約書・支払日・対象期間の3つが揃っていれば問題はありません。揃っていなければ、その期の損金から外され、翌期の損金に移ります。

よくある質問

前払費用はいつ経費になりますか

前払費用とは、契約にもとづいて継続的にサービスを受けるために支払った費用のうち、期末の時点でまだ受けていないサービスに対応する部分です。原則として、支払ったときは資産(前払費用)に計上し、サービスを受けたときに損金になります。→ 本文で読む

家賃を1年分前払いしたとき、払った期の経費にできますか

原則に対する例外が、短期前払費用です。 支払った日から1年以内に受けるサービスの分 を支払ったとき、その額を毎期継続して支払った期の損金にしているなら、支払時点での損金算入が認められます。→ 本文で読む

短期前払費用は利益が出た年だけ使えますか

この特例は、 毎期同じ処理を続けること が前提です。利益が出た年だけ1年分を前払いして損金にし、利益が出ない年は月払いに戻す、という使い方は「継続して損金の額に算入している」に当たりません。→ 本文で読む

短期前払費用の対象にならない費用はありますか

No.5380は、対象外になる費用として「収益の計上と対応させる必要があるもの」を挙げています。例に出ているのは、借入金を預金や有価証券などで運用する場合の、その借入金の支払利子です。→ 本文で読む

短期前払費用が税務調査で否認されるのはどんな場合ですか

1つめは、契約が月払いのまま、支払だけ1年分をまとめたケース。 前払費用は「一定の契約に基づき」支払うものです。契約書が月払いで、家主に頼んで先に1年分を受け取ってもらっただけでは、「1年分を前払いする契約」とは言えません。年払いに変えるなら、契約書か覚書を年払いに書き換えます。→ 本文で読む

出典

  1. 国税庁「No.5380 短期前払費用として損金算入ができる場合」
    https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5380.htm

この記事は、記載時点で公表されている法令・通達・国税庁の資料にもとづいて書いています。制度は改正されることがあり、また個別の事情によって取扱いは変わります。実際のご判断にあたっては、税理士にご相談いただくか、所轄の税務署にお確かめください。当事務所は本記事の情報を用いて行われた判断について責任を負いかねます。

期末の経費処理は、決算の2か月前にご相談ください。

家賃や保険料の年払いへの切替えは、契約の変更と支払日の設定が要ります。決算日を過ぎてからでは間に合いません。今期の着地見込みと合わせて、やる価値があるかどうかからご一緒に判断します。