節税
赤字は3年繰り越せます。
青色申告の
純損失の繰越控除
赤字の年は、申告しなくていい。そう考えて出さない方がいますが、これはもったいない。
青色申告なら、その年の赤字を翌年以降3年間に繰り越して、黒字と相殺できます。ただし繰り越すには条件があり、いちばん大事なのは「その年に申告しておくこと」です。
どういう制度か
国税庁は、青色申告の主な特典のひとつとしてこれを挙げています。
国税庁「No.2070 青色申告制度」青色申告の特典
純損失の繰越控除(青色申告の主な特典のひとつとして掲げられています)
その年に生じた赤字を、翌年以降3年間に繰り越して、その年の黒字から差し引ける制度です。白色申告ではできません。(白色でも被災事業用資産の損失など一部は繰り越せますが、通常の赤字は対象外です。)
まず損益通算、それでも残った分を繰り越す
順番があります。いきなり繰り越すのではありません。
- まず、その年の他の所得と相殺する(損益通算)。事業所得の赤字は、給与所得や不動産所得と相殺できます
- それでも引ききれなかった分が「純損失」になります
- その純損失を、翌年以降3年間に繰り越す
会社員が副業を始めた年に赤字が出た場合、まず本業の給与と通算されます。給与のほうが大きければ、そこで消えてしまうので繰り越す分は残りません。繰越が効いてくるのは、他に所得がないか、赤字がそれを上回るときです。
繰り越すための条件
3つあります。どれも手続きの話です。
| 条件 | 中身 |
|---|---|
| ① 青色申告であること | その年について青色申告の承認を受けていること |
| ② 赤字の年に申告すること | 赤字が出た年の確定申告書を提出していること。出していなければ繰り越せません |
| ③ 続けて申告すること | 繰り越している間、毎年続けて確定申告書を提出していること |
②と③が落とし穴です。
赤字だから税金はゼロ。だから申告しなくていい——そう考えて出さないと、その赤字は繰り越せません。翌年に黒字が出ても、相殺するものがない状態になります。
③も同じです。繰り越している途中の年に「今年も赤字だから」と申告を飛ばすと、そこで繰越が途切れます。3年間、毎年出し続ける必要があります。
数字で見るとどうなるか
事業を始めた年に200万円の赤字が出て、翌年から黒字になった場合です。他に所得はないものとします。
| その年の所得 | 繰越を使う | 差引後 | 繰越の残り | |
|---|---|---|---|---|
| 1年目 | ▲200万円 | — | 0 | 200万円 |
| 2年目 | 80万円 | 80万円 | 0 | 120万円 |
| 3年目 | 150万円 | 120万円 | 30万円 | 0 |
| 4年目 | 300万円 | — | 300万円 | — |
2年目は所得がゼロになるので、所得税も住民税もかかりません。3年目も課税されるのは30万円だけです。1年目に申告していなければ、2年目に80万円、3年目に150万円がそのまま課税されていました。
差は税金だけではありません。所得が下がれば、国民健康保険料も下がります。個人事業主にとっては、こちらの効果も小さくありません。
4年目には使えません
繰り越せるのは3年間です。3年のあいだに黒字が出なければ、その赤字は消えます。事業の立ち上がりに時間がかかる場合、1年目の赤字が使い切れないこともあります。初年度に経費を集中させるかどうかは、その先の見通しと合わせて考える必要があります。
前年に納めた税金を取り戻す方法もあります
繰越とは逆方向の制度もあります。純損失の繰戻し還付です。
前年は黒字で税金を納めた。今年は赤字になった。このとき、今年の赤字を前年に繰り戻して、納めた所得税の還付を受けられます。
使える条件は、前年も今年も青色申告をしていること、そして確定申告書と一緒に「純損失の金額の繰戻しによる所得税の還付請求書」を出すことです。
| 繰越控除 | 繰戻し還付 | |
|---|---|---|
| 方向 | 赤字を翌年以降へ | 赤字を前年へ |
| 効果 | 将来の税金が減る | 納めた税金が戻る |
| 期間 | 3年間 | 前年のみ |
| 手続き | 申告書に記載 | 還付請求書の提出 |
資金繰りが厳しい年には、繰戻し還付のほうが効きます。将来の減税ではなく、現金が戻ってくるからです。
ただし還付請求をすると税務署の調査対象になりやすい、と言われることがあります。これは制度上、還付にあたって内容が確認されるためです。やましいところがなければ恐れる話ではありませんが、帳簿と資料は整えておいてください。
赤字の年こそ申告してください
この記事の結論は、これに尽きます。
赤字の年は、税金がゼロなので申告する動機が薄くなります。しかも売上が落ちている年ですから、申告料を払うのも気が重い。よく分かります。
それでも申告しておく理由が、3つあります。
- 赤字を繰り越せる。出さなければ権利そのものが消えます
- 前年の税金が戻ることがある。繰戻し還付が使えるのは、申告した場合だけです
- 国民健康保険料が下がる。所得の申告をしないと、保険料の軽減判定ができません
そして、申告しない年があると青色申告の承認が取り消されることにもつながります。青色申告は帳簿を作り続けることが条件の制度です。1年空けたことで、翌年以降の65万円控除まで失うのは、あまりに惜しい。
出典
- 国税庁「No.2070 青色申告制度」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2070.htm - 国税庁「No.2075 青色事業専従者給与と事業専従者控除」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2075.htm
この記事は、記載時点で公表されている法令・通達・国税庁の資料にもとづいて書いています。制度は改正されることがあり、また個別の事情によって取扱いは変わります。実際のご判断にあたっては、税理士にご相談いただくか、所轄の税務署にお確かめください。当事務所は本記事の情報を用いて行われた判断について責任を負いかねます。
赤字の年でも、申告しておく価値があります。
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