開示
Anthropicの上場申請書類(S-1)を読む③
計算資源の契約は2045年まで続く
Anthropicの費用の中で、いちばん大きな項目は計算資源です。Anthropicの上場申請書類(S-1)には、その仕入れ契約が相手先の名前と金額つきで並んでいます。たとえばGoogleとの契約は、実際に使ったかどうかにかかわらず、最低約1,145億ドルを払う約束です。この回では、4系統のチップ、2045年まで続く契約、費用の伸び方、自社データセンターへの移行を、原文の数字で追います。
この記事の要点
Anthropicの上場申請書類(S-1)から計算資源(AIを動かすチップとデータセンター)を読み解きます。Googleとは使っても使わなくても最低約1,145億ドル、Amazonとは最低1,100億ドルの支払いを約束。2026年4〜6月の売上は前年同期比+1,368%、計算資源費用は+300%でした。契約の総額は空欄です。
先に見ておくと分かりやすいもの
4系統のチップを「1つのプール」として使う
AIの学習と提供には、膨大な計算が必要です。その計算をこなす半導体(チップ)と、チップを置くデータセンターを、S-1は「compute」という言葉で語っています。この記事では「計算資源」と訳します。
Anthropicが使うチップは4系統です。AmazonのTrainium、GoogleのTPU、NVIDIAのGPU、AMDのGPUです。ひとつのメーカーに頼らない形を、会社は強みとして書いています。
S-1 原文
原文(S-1 Business の章)
Our compute pool is fungible by design.
日本語訳:当社の計算資源のプールは、設計上、融通がきくものです。
「融通がきく」とは、どの会社のチップでも、どこの施設にあっても、仕事を振り分けられるという意味です。顧客にAIを提供する設備と、研究・モデル開発・社内でのClaude利用に使う設備は同じです。社内のシステムが、その時いちばん役立つところへ計算を回します。
チップの入手先も具体的に書かれています。NVIDIAのGPUは、NVIDIAとの提携に加えて、Microsoft、SpaceXAI、Nscale、Lambdaなどとの契約を通じて使います。GoogleのTPUは、GoogleとBroadcomとの提携を通じて使います。
会社はさらに、各メーカーの「次の世代のチップ」の設計にも影響を与えていると書いています。新しいチップを本番で使えるようにする作業も、Claudeを使うことで、何か月もかかっていた以前の作業より早くなったそうです。
計算資源は「12〜18か月前」に買う
計算資源の調達のしかたには、ふつうの会社の仕入れと違う点があります。使う時期よりずっと前に、何年分もまとめて契約するのです。
原文(S-1 MD&A の章)
the majority of our compute is contracted under multi-year commitments that we typically procure 12 to 18 months in advance of availability.
日本語訳:当社の計算資源の大半は複数年の約束で契約しており、通常は使えるようになる12〜18か月前に調達します。
前もって買うので、費用は「その期の需要」ではなく「契約した計算資源が届いた時期」に増えます。会社は、投資を約束してから売上になるまでに「時間差(lag)」があると説明しています。大きな計算資源が稼働する期には、利益率が下がることもありえます。
逆に、需要が契約分を上回ると、短期の契約で足りない分を補います。短期の契約は、計算量あたりの単価がふつう高くなります。S-1は、この短期の調達が近いうちに増え、営業利益率を押し下げる見込みだと書いています。
では、どれだけ先まで約束しているのでしょうか。2026-09-30時点とその後に結んだ購入契約・リースの総額は、この版では空欄です。ただし時期の見通しは書かれています。一部は2030-12-31までに発生し、残りのほぼ全部は2031〜2045年に発生する見込みです。
S-1 原文
原文(S-1 Prospectus Summary の章)
substantially all of the remainder is expected to be incurred between 2031 and 2045.
日本語訳:残りのほぼ全部は、2031年から2045年の間に発生する見込みです。
約20年先まで続く支払いの約束が、すでに積み上がっているということです。リスクの章には、電力とデータセンターの一部の契約は当初の期間が20年だとも書かれています。毎年の値上げ条項と、使っても使わなくても払う「テイク・オア・ペイ」の義務も含みます。
名前と金額が書かれた大型契約
契約の総額は空欄ですが、MD&A(経営者による財政状態と経営成績の分析)には、主な契約が1件ずつ書かれています。原文のまま整理すると次のとおりです。
| 相手 | 契約の時期 | 金額(原文の表現) | 期間 |
|---|---|---|---|
| Microsoft | 2025年11月(2026年2月・10月に変更) | 最低449億ドル | 2026年11月〜2033年5月 |
| 2026年3月(同5〜8月に変更) | 最低 約1,145億ドル | 2026年4月〜2033年7月 | |
| Amazon | 2026年4月 | 最低1,100億ドル | 2026年5月〜2036年4月 |
| SpaceXAI(NVIDIA GPU) | 2026年5〜10月 | 最大1,205億ドル | 2029年まで |
| Nscale(NVIDIA GPU) | 2026年8月 | 最大 約446億ドル | 2033年まで |
| Lambda(NVIDIA GPU) | 2026年5・6・8月 | 約413億ドル | 2034年まで |
| Broadcom(TPUの機器リース) | — | リース料 約1,612億ドル(利息を除く) | 5年 |
このほか、Googleを含むTPU提供者からの追加分(2028〜2031年に納入)が約1,250億〜1,500億ドルと見積もられています。AMDとの契約も、当初の分を全部調達すれば200億ドルを超える見込みです。この2つは上の契約債務の表に含まれていません。
目を引くのは、Microsoft・Google・Amazonの3件に共通する言葉です。
原文(S-1 MD&A の章)
we committed to spend at least approximately $114.5 billion between April 2026 and July 2033, regardless of actual usage.
日本語訳:当社は、2026年4月から2033年7月までの間に、実際の使用量にかかわらず、少なくとも約1,145億ドルを支出することを約束しました。
GoogleとAmazonの契約では、実際の支出が約束に届かなければ、差額を払う(精算する)と書かれています。どちらも、相手に重大な契約違反がない限り、原則として解約できません。
一方で、契約ごとに条件は違います。SpaceXAIは旧X.AIで、原文ではSpace Exploration Technologies Corp.の全額出資子会社と書かれています。この契約は、全部の容量が届くと月に約31億ドルになります。ただし2027年1月・3月に終わる当初の期間のあとは、90日前の通知で解約できます。Lambdaとの約413億ドルのうち、約349億ドル分は、Lambdaが施設のリースを確保できなければ解約できる契約です。
表の7件には「最低」「最大」「約」が混ざり、期間もばらばらです。そのため、単純に足しても総額にはなりません。全体の総額は、原文でも空欄のままです。
売上は+1,368%、計算資源の費用は+300%
これだけの契約は、損益計算書(P/L)にどう表れているのでしょうか。「計算資源・インフラ費用(Compute and infrastructure)」の推移は次のとおりです。
| 期間 | 計算資源・インフラ費用 | 売上に対する割合 |
|---|---|---|
| 2023年(1〜12月) | 4億3,300万ドル(433百万ドル) | 1,056% |
| 2024年(1〜12月) | 25億2,200万ドル(2,522百万ドル) | 653% |
| 2025年(1〜12月) | 73億2,600万ドル(7,326百万ドル) | 160% |
| 2025年1〜6月 | 23億3,400万ドル(2,334百万ドル) | 201% |
| 2026年1〜6月 | 89億4,500万ドル(8,945百万ドル) | 55% |
2023年は、計算資源の費用が売上の10倍を超えていました。2026年1〜6月には、売上の55%まで下がっています。費用の額は増え続けていますが、売上がそれ以上に伸びたためです。
四半期(3か月)で見ると、変化はもっとはっきりします。売上に対する計算資源費用の割合は、2025年1〜3月の251%から、2026年4〜6月の48%まで下がりました。
| 3か月の期間 | 売上 | 計算資源・インフラ費用 | 割合 |
|---|---|---|---|
| 2025年1〜3月 | 376百万ドル | 944百万ドル | 251% |
| 2025年4〜6月 | 787百万ドル | 1,390百万ドル | 177%(筆者計算) |
| 2025年7〜9月 | 1,382百万ドル | 2,047百万ドル | 148%(筆者計算) |
| 2025年10〜12月 | 2,040百万ドル | 2,945百万ドル | 144%(筆者計算) |
| 2026年1〜3月 | 4,731百万ドル | 3,387百万ドル | 72%(筆者計算) |
| 2026年4〜6月 | 11,555百万ドル | 5,558百万ドル | 48% |
会社は、この差を「計算効率(Compute Efficiency)」の証拠として示しています。
S-1 原文
原文(S-1 Business の章)
our revenue grew 1,368% year over year for the three months ended June 30, 2026, compared to our compute and infrastructure expenses that grew 300% during the same period.
日本語訳:2026-06-30に終わる3か月の売上は前年同期比1,368%増えたのに対し、同じ期間の計算資源・インフラ費用は300%の増加でした。
表の数字で確かめてみます。売上は7億8,700万ドルから115億5,500万ドルへ約14.7倍です。費用は13億9,000万ドルから55億5,800万ドルへ約4.0倍です。それぞれ+1,368%、+300%と一致します。
ただし、この費用は「前もって契約した分が届いたとき」に増えます。2026年1〜6月の増加(66億ドル、+283%)について、会社は、クラウド事業者との契約で約束した計算資源が上期を通じて届いたためと説明しています。新しい大型契約が稼働し始めれば、割合はまた上がりうるということです。
自社データセンター「Anthropic Direct」へ
これまでAnthropicは、計算資源をクラウドのサービスとして買ってきました。いまは、それに加えて新しい形に移りつつあります。
S-1 原文
原文(S-1 Business の章)
We refer to this additional source of compute as Anthropic Direct. ... Our first data center facility became operational this year.
日本語訳:この追加の計算資源の調達先を、当社はAnthropic Directと呼んでいます。……当社の最初のデータセンター施設は今年稼働しました。
Anthropic Directは、AI用のチップを自分で調達し、自社の仕様でつくった専用のデータセンターに置く方式です。一部の契約では、施設の土地・電力・建物は第三者のパートナーが用意し、Anthropicがその容量を借ります。運営も専門の会社に任せます。原文には、Fluidstackとのコロケーション(施設の場所と運営を借りる契約)の例が書かれています。
面白いのは、データセンターとチップの契約を分けている点です。データセンターは準備に長い時間がかかりますが、計算資源の費用全体に占める割合は小さいと会社は書いています。そこで、データセンターは早めに押さえ、金額の大きいチップの投資は必要量がはっきりするまで遅らせます。
前の節のBroadcomとのリースは、この方式の中心です。会計上はファイナンス・リース(実質的に資産を買ったのと同じように扱うリース)として処理されます。2026年に一部が稼働し、2027年からは追加の容量も稼働する見込みです。
施設の場所は主に米国です。オーストラリアとカナダでもデータセンター容量のリース契約を結んでおり、ほかの国でも探していると書かれています。電力については、送電網を通さず施設に直接電気を送る「behind-the-meter」の発電も選択肢に挙がっています。
支払いの手当て:手元資金と社債の枠
これだけの支払いを、どう手当てするのでしょうか。2026-06-30時点の手元資金は、現金及び現金同等物が1,124億ドル、短期投資が193億ドルです。創業からの調達額は累計1,411億ドルです。
これに加えて、計算資源の相手先が、そのまま資金の出し手にもなっています。社債購入契約(NPA。将来、会社が社債を発行して相手が買う約束)の未使用枠は、2026-06-30時点で次のとおりです。
| 相手 | 契約 | 未使用枠 |
|---|---|---|
| Google 2026 NPA(引出期限2030年12月) | 200億ドル(20,000百万ドル) | |
| Amazon | Amazon 2026 NPA | 150億ドル(15,000百万ドル) |
| Broadcom | Infrastructure Partner 2026 NPA | 420億ドル(42,000百万ドル) |
| 合計 | 770億ドル(77,000百万ドル) |
Broadcomの枠は、2026年のリース契約の四半期ごとのリース料を払うためだけに使えます。金利は年9.00%で、売上の条件を満たさない期間に出す社債は年13.00%になります。AMDも、機器の納入と稼働の節目に応じて、AnthropicのClass N株を最大50億ドル買う約束をしています。最初の節目は2027年の見込みです。
キャッシュフロー(現金の出入り)にも変化が出ています。2026年1〜6月の投資活動のキャッシュフローは、171億8,100万ドルの支出(△17,181百万ドル)でした。主な中身は短期投資の購入と、サーバー・ネットワーク機器などの設備投資です。2025年1〜6月は4,900万ドルの支出でした。
会社は、今後について次のように書いています。
原文(S-1 MD&A の章)
Our net cash used in these activities may increase regardless of whether our financial performance improves.
日本語訳:これらの活動で使う現金(純額)は、当社の業績が良くなるかどうかにかかわらず、増える可能性があります。
クラウド経由の計算資源は、届いた分を払うのが基本でした。自社のインフラでは、稼働するずっと前に大きな前払いが必要になります。業績が良くなっても現金の流出が増えうる、と会社自身が書いているのは大事な点です。
会計士の読みどころと、次回
会計士の目で見ると、この章の読みどころは3つあります。
1つ目は、P/Lに出てくる費用と、約束している支払いの大きさの差です。2026年1〜6月の計算資源費用は89億4,500万ドルでした。一方、個別の契約は1件で1,000億ドルを超えるものが複数あります。P/Lだけでは、これから先の支払いの重さは見えません。
2つ目は、空欄の数字です。契約債務の表(年ごとの支払予定)、総額、12か月以内の支払額は、この版ではすべて空欄です。訂正版(S-1/A)でここが埋まれば、年ごとの支払いの山がどこにあるかが分かります。
3つ目は、費用の性格の変化です。クラウドの計算資源は、使えるようになった時期の費用になります。一方、ファイナンス・リースや自社設備は、資産に計上して何年かに分けて償却します。2026年から、計算資源の費用にはリース資産の償却や減価償却も含まれるようになりました。同じ「計算資源の費用」でも、中身の比べ方に注意が必要です。
なお、この記事は2026-10-26に提出された初回のS-1だけに基づいています。公開価格・株数・契約の総額などは空欄で、今後の訂正版(S-1/A)で数字が変わったり加わったりする可能性があります。投資の判断を助言するものではありません。
次回は、この計算資源で動く事業そのものを読みます。Claude・Claude Code・Claude Coworkという製品と、直近12か月の売上が10万ドル以上の顧客が、2026-09-30時点で11,900社を超えた中身を見ていきます。
よくある質問
Anthropicの計算資源の契約は、総額でいくらですか?
契約の総額は空欄ですが、MD&A(経営者による財政状態と経営成績の分析)には、主な契約が1件ずつ書かれています。原文のまま整理すると次のとおりです。 このほか、Googleを含むTPU提供者からの追加分(2028〜2031年に納入)が約1,250億〜1,500億ドルと見積もられています。AMDとの契約も、当初の分を全部調達すれば200億ドルを超える見込みです。この2つは上の契約債務の表に含まれていません。→ 本文で読む
Googleとの契約の「使用量にかかわらず」とはどういう意味ですか?
契約の総額は空欄ですが、MD&A(経営者による財政状態と経営成績の分析)には、主な契約が1件ずつ書かれています。原文のまま整理すると次のとおりです。 このほか、Googleを含むTPU提供者からの追加分(2028〜2031年に納入)が約1,250億〜1,500億ドルと見積もられています。AMDとの契約も、当初の分を全部調達すれば200億ドルを超える見込みです。この2つは上の契約債務の表に含まれていません。→ 本文で読む
計算資源の費用は売上に比べてどれくらいですか?
これだけの契約は、損益計算書(P/L)にどう表れているのでしょうか。「計算資源・インフラ費用(Compute and infrastructure)」の推移は次のとおりです。 2023年は、計算資源の費用が売上の10倍を超えていました。2026年1〜6月には、売上の55%まで下がっています。費用の額は増え続けていますが、売上がそれ以上に伸びたためです。→ 本文で読む
Anthropic Directとは何ですか?
これまでAnthropicは、計算資源をクラウドのサービスとして買ってきました。いまは、それに加えて新しい形に移りつつあります。 日本語訳:この追加の計算資源の調達先を、当社はAnthropic Directと呼んでいます。……当社の最初のデータセンター施設は今年稼働しました。→ 本文で読む
巨額の支払いはどうやって手当てするのですか?
これだけの支払いを、どう手当てするのでしょうか。2026-06-30時点の手元資金は、現金及び現金同等物が1,124億ドル、短期投資が193億ドルです。創業からの調達額は累計1,411億ドルです。→ 本文で読む
出典
- Anthropic, PBC「Form S-1 Registration Statement」2026年10月26日提出(米国証券取引委員会 EDGAR)
https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/2130357/000162828026067168/anthropicpbc-sx1.htm
この記事は、記載時点で公表されている法令・通達・国税庁の資料にもとづいて書いています。制度は改正されることがあり、また個別の事情によって取扱いは変わります。実際のご判断にあたっては、税理士にご相談いただくか、所轄の税務署にお確かめください。当事務所は本記事の情報を用いて行われた判断について責任を負いかねます。
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