副業
給与所得者の特定支出控除。
通勤費・研修費・資格取得費など7つの支出が給与所得控除額の2分の1を超えたら確定申告で引けます
会社員の方から、「自腹で払った研修費や資格の費用は経費にならないのか」というご質問をいただきます。
答えを先に書くと、会社員には事業所得のような必要経費はありませんが、通勤費・研修費・資格取得費など7つの特定支出の合計が、給与所得控除額の2分の1を超えたときは、その超えた部分を確定申告で差し引けます。これが給与所得者の特定支出控除です。
ただし、支出が職務に直接必要であることを勤務先などが証明する必要があり、基準となる金額も決して低くありません。国税庁のタックスアンサーNo.1415で、対象になる支出と手続を確認していきます。
この記事の要点
給与所得者の特定支出控除は、通勤費、職務上の旅費、転居費、研修費、資格取得費、帰宅旅費、勤務必要経費(65万円まで)の7つの特定支出の合計額が給与所得控除額の2分の1相当額を超えるときに、その超える部分を給与所得控除後の所得金額から差し引ける制度です。給与の支払者などの証明が必要で、確定申告で受けます。国税庁タックスアンサーNo.1415をもとに整理しました。
先に見ておくと分かりやすいもの
給与所得控除額の2分の1を超えた分を差し引く
給与所得者の特定支出控除は、給与所得者が一定の特定支出をした場合に、その年の特定支出の額の合計額が給与所得控除額の2分の1相当額を超えるときは、確定申告によりその超える部分の金額を給与所得控除後の所得金額から差し引くことができる制度です。国税庁のタックスアンサーNo.1415がこう定めています。
国税庁 タックスアンサー No.1415「給与所得者の特定支出控除」
給与所得者が次の1から7の特定支出をした場合、その年の特定支出の額の合計額が、給与所得控除額の2分の1相当額を超えるときは、確定申告によりその超える部分の金額を給与所得控除後の所得金額から差し引くことができる制度があります。
会社員には、収入に応じて自動的に差し引かれる給与所得控除があります。特定支出控除は、その給与所得控除に上乗せして差し引く制度です。差し引けるのは特定支出の全額ではなく、給与所得控除額の2分の1を超えた部分だけです。基準が給与所得控除額の半分ですから、支出がかなり大きくないと使えません。
対象になる7つの特定支出
特定支出とは、給与所得者が支出する次の7つの支出のうち一定のものです。No.1415は、通勤費、職務上の旅費、転居費、研修費、資格取得費、帰宅旅費、勤務必要経費の順に挙げています。
| 特定支出 | 内容 | |
|---|---|---|
| 1 | 通勤費 | 一般の通勤者として通常必要であると認められる通勤のための支出 |
| 2 | 職務上の旅費 | 勤務する場所を離れて職務を遂行するための直接必要な旅行のために通常必要な支出(令和2年分以後) |
| 3 | 転居費 | 転勤に伴う転居のために通常必要であると認められる支出 |
| 4 | 研修費 | 職務に直接必要な技術や知識を得ることを目的として研修を受けるための支出 |
| 5 | 資格取得費 | 職務に直接必要な資格を取得するための支出 |
| 6 | 帰宅旅費 | 単身赴任などの場合で、勤務地または居所と自宅の間の旅行のために通常必要な支出 |
| 7 | 勤務必要経費 | 図書費、衣服費、交際費等(合計65万円まで) |
いずれにも「通常必要」「職務に直接必要」という限定がついています。職務と関係のない自己啓発の講座や、趣味の資格は入りません。No.1415の注記のとおり、職務上の旅費は令和2年分以後に特定支出の対象になったものです。
会社から通勤手当が出ている方の通勤費は、後で述べる「補てんされる部分」の扱いに注意が必要です。通勤手当そのものの非課税の扱いは通勤手当の非課税限度額で整理しています。
勤務必要経費は65万円までが上限
7つめの勤務必要経費だけは、金額に上限があります。No.1415は、勤務必要経費について、その支出の額の合計額が65万円を超える場合には65万円までの支出に限る、としています。中身は次の3つです。
- 図書費:書籍、定期刊行物その他の図書で職務に関連するものを購入するための支出
- 衣服費:制服、事務服、作業服その他の勤務場所において着用することが必要とされる衣服を購入するための支出
- 交際費等:給与等の支払者の得意先、仕入先その他職務上関係のある者に対する接待、供応、贈答その他これらに類する行為のための支出
会社員の方が「経費にしたい」と考えるのは、たいていこの図書費・衣服費・交際費等です。ただし、ここに入るのは職務に関連する図書、勤務場所で着ることが必要な衣服、職務上の関係者への接待などに限られ、しかも3つ合わせて65万円が上限です。スーツ代が無条件に入るわけではない点は押さえておいてください。
給与の支払者などの証明が必要
特定支出控除の最大の関門が証明です。No.1415は、7つの特定支出はいずれも、その支出がその方の職務の遂行に直接必要なものであることなどについて、給与の支払者またはキャリアコンサルタントによって証明がされたものに限られる、としています。
国税庁 タックスアンサー No.1415「給与所得者の特定支出控除」
これらの7つの特定支出は、いずれもその支出がその方の職務の遂行に直接必要なものであることなどについて給与の支払者またはキャリアコンサルタントによって証明がされたものに限られます
自分で「仕事に必要だった」と判断するだけでは足りません。勤務先に証明書を書いてもらう必要があります。キャリアコンサルタントの証明で対象になるのは、No.1415の括弧書きによれば、令和5年分以後の研修費または資格取得費のうち教育訓練に係る部分に限られます。通勤費や転居費、勤務必要経費は、勤務先の証明が必要ということです。
補てんや給付金を受けた部分は含まない
支出のうち、会社や制度から埋め合わせを受けた部分は特定支出に含まれません。No.1415は、給与の支払者から補てんされる部分があり、かつ、その補てんされる部分に所得税が課税されていない場合のその補てんされる部分は、特定支出に含まれない、としています。
たとえば、会社から非課税の通勤手当が出ていれば、その分の通勤費は特定支出から外れます。転居費用を会社が負担した場合も同じです。自分の手取りから実際に出た分だけが対象です。
さらに、雇用保険法による「教育訓練給付金」や、母子および父子ならびに寡婦保護法による「母子(父子)家庭自立支援教育訓練給付金」が支給される部分も、特定支出には含まれません。資格取得のために給付金を受けた方は、給付金で埋まった部分を除いて計算します。
確定申告で明細書と証明書を添付する
特定支出控除は、年末調整では受けられません。No.1415は、この控除を受けるためには確定申告を行う必要がある、としています。申告先は所轄税務署です。
その際、特定支出に関する明細書と、給与の支払者またはキャリアコンサルタントの証明書を申告書に添付します。さらに、特定支出に係るその支出の事実および支出した金額を証する書類を、申告書に添付するか、申告書を提出する際に提示します。領収書は必ず残しておいてください。
会社員の方が確定申告をする場面は、この特定支出控除のほかにもあります。会社員でも確定申告が必要な場合で整理しています。副業の側で経費を考えるときは、給与とは別の「必要経費」の考え方になります。そちらは副業の必要経費をご覧ください。
よくある質問
給与所得者の特定支出控除とはどのような制度ですか
給与所得者の特定支出控除は、給与所得者が一定の特定支出をした場合に、その年の特定支出の額の合計額が給与所得控除額の2分の1相当額を超えるときは、確定申告によりその超える部分の金額を給与所得控除後の所得金額から差し引くことができる制度です。国税庁のタックスアンサーNo.1415がこう定めています。→ 本文で読む
特定支出控除の対象になる支出は何ですか
特定支出とは、給与所得者が支出する次の7つの支出のうち一定のものです。No.1415は、通勤費、職務上の旅費、転居費、研修費、資格取得費、帰宅旅費、勤務必要経費の順に挙げています。→ 本文で読む
スーツ代や書籍代は特定支出控除の対象になりますか
7つめの勤務必要経費だけは、金額に上限があります。No.1415は、勤務必要経費について、その支出の額の合計額が65万円を超える場合には65万円までの支出に限る、としています。中身は次の3つです。→ 本文で読む
特定支出控除に勤務先の証明は必要ですか
特定支出控除の最大の関門が証明です。No.1415は、7つの特定支出はいずれも、その支出がその方の職務の遂行に直接必要なものであることなどについて、給与の支払者またはキャリアコンサルタントによって証明がされたものに限られる、としています。→ 本文で読む
会社から通勤手当をもらっている場合の通勤費は特定支出になりますか
支出のうち、会社や制度から埋め合わせを受けた部分は特定支出に含まれません。No.1415は、給与の支払者から補てんされる部分があり、かつ、その補てんされる部分に所得税が課税されていない場合のその補てんされる部分は、特定支出に含まれない、としています。→ 本文で読む
特定支出控除は年末調整で受けられますか
特定支出控除は、年末調整では受けられません。No.1415は、この控除を受けるためには確定申告を行う必要がある、としています。申告先は所轄税務署です。 その際、特定支出に関する明細書と、給与の支払者またはキャリアコンサルタントの証明書を申告書に添付します。さらに、特定支出に係るその支出の事実および支出した金額を証する書類を、申告書に添付するか、申告書を提出する際に提示します。 領収書は必ず残しておいてください。→ 本文で読む
出典
- 国税庁「No.1415 給与所得者の特定支出控除」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1415.htm
この記事は、記載時点で公表されている法令・通達・国税庁の資料にもとづいて書いています。制度は改正されることがあり、また個別の事情によって取扱いは変わります。実際のご判断にあたっては、税理士にご相談いただくか、所轄の税務署にお確かめください。当事務所は本記事の情報を用いて行われた判断について責任を負いかねます。
自己負担した研修や資格の費用は、領収書を捨てずに残してください。
特定支出控除は、勤務先の証明が取れるか、給与所得控除額の2分の1を超えるかの2点で使えるかどうかが決まります。転勤や単身赴任、大きな資格取得があった年は、支出をまとめて確かめる価値があります。給与の源泉徴収票と支出の領収書をお持ちいただければ、基準を超えるかどうかを一緒に計算します。ふじみ野市とその近隣の方は訪問でのご相談も承ります。初回30分は無料です。
あわせて読む
同じテーマの記事
確定申告の手続
確定申告書の提出先は納税地の税務署。住所地が原則
所得税の確定申告書は、提出時の納税地を所轄する税務署長に提出します。
確定申告の手続
満期保険金と会社員の確定申告。20万円は2分の1後で判定
保険料を負担した本人が満期保険金を一度に受け取った所得は、原則として一時所得です。
確定申告の手続
個人事業主が引っ越したら。納税地の異動の届出は申告書で済む
個人事業主が転居して納税地に異動があった場合、確定申告書に異動後の納税地を記載して提出すれば変…
確定申告の手続
休業手当は課税、休業補償は非課税。労基法の手当の税金
会社の都合で休業したときに支給される労働基準法第26条の「休業手当」は給与所得として課税されま…