法人
法人成りの前から働いていた従業員の退職金。
個人時代の分は会社の損金になりません
個人事業から会社にした方(法人成り)で、個人事業のころから働いてくれている従業員がいらっしゃることがあります。その方が退職するとき、退職金は「個人時代も含めた勤続年数」で計算するのが自然です。
答えを先に書くと、法人成りしてすぐの退職なら、個人時代の勤務に対応する部分は会社の損金になりません。その部分は、個人事業の最終年分の必要経費です。一方、法人設立後相当の期間が経過してからの退職なら、全額が会社の損金になります。
国税庁のタックスアンサーNo.5220は短い回答ですが、分かれ目ははっきりしています。順に確認していきます。
この記事の要点
個人事業を引き継いで設立した会社が、個人事業当時から引き続き在職する従業員に、個人時代の勤務年数も含めて退職金を計算して支給した場合、個人時代の勤務に対応する部分は会社の損金にならず、個人事業の最終年分の事業所得の必要経費になります。ただし、法人設立後相当の期間が経過した後の退職であれば、支給した退職金の全額が会社の損金になります。国税庁タックスアンサーNo.5220をもとに整理しました。
先に見ておくと分かりやすいもの
答え。個人時代の分は会社の損金にならない
まず答えを書くと、個人事業を引き継いで設立された会社が、個人事業当時から引き続き在職する従業員の退職に伴い、個人時代を含めた勤務実績で退職金を計算して支給した場合、個人時代の勤務に対応する部分の金額は会社の損金に算入されません。国税庁のタックスアンサーNo.5220は、その部分は個人事業の最終年分の事業所得の計算上、必要経費になる、としています。
国税庁 タックスアンサー No.5220「個人事業当時からの使用人に対する退職金」
個人事業を引き継いで設立された法人が、個人事業当時から引き続き在職する使用人の退職に伴い個人時代からの勤務年数など個人時代を含めた勤務実績を基に退職金を算定し支給した場合は、個人時代の勤務に対応する部分の金額は法人の損金の額には算入されず、個人事業の最終年分の事業所得の計算上、必要経費になります。
退職金を払うのは会社です。それでも、個人時代に働いてもらった分の退職金は、個人事業の費用として扱うというのがこの考え方です。会社が払ったからといって、その全額が会社の費用になるわけではありません。
なぜ会社の損金にならないのか
個人事業と、その事業を引き継いだ会社は、税務上は別の人格です。個人時代の勤務に対する退職金は、本来は個人事業主が負担すべき費用で、会社が負担する理由がない、というのが基本の考え方です。
法人成りをすると、事業の中身はそのまま続きます。従業員も同じ人が同じ仕事をしています。しかし、雇い主は「個人」から「会社」に変わっています。会社が個人時代の分まで退職金を負担すると、その部分は会社の事業に対応しない支出になります。だから会社の損金に入れない、という整理です。
ひとり会社や小さな会社では、社長ご自身がもとの個人事業主です。「自分の事業だから同じこと」と感じるところですが、税務では個人と会社を分けて見ます。役員報酬や社宅など、ほかの場面でも同じ考え方が出てきます。
個人時代の分は、個人事業の最終年分の必要経費
会社の損金にならない部分は、消えてなくなるわけではありません。No.5220は、個人時代の勤務に対応する部分の金額は、個人事業の最終年分の事業所得の計算上、必要経費になる、としています。
個人事業の最終年分というのは、法人成りをして個人事業を廃業した年の確定申告のことです。会社が退職金を払った年ではなく、個人事業を終えた年の必要経費になります。
つまり、法人成りした年の個人の確定申告で、その部分を必要経費として反映することになります。すでに申告が終わっている場合は、その年分の申告の見直しが必要になります。法人成りの直後に従業員が退職すると、会社の申告と個人の申告の両方にまたがる話になります。
法人設立後相当の期間が経過していれば全額損金
ここが実務で大事な分かれ目です。No.5220は、その退職が法人設立後相当の期間が経過した後であるときは、その支給した退職金の金額が会社の損金の額に算入される、としています。
国税庁 タックスアンサー No.5220「個人事業当時からの使用人に対する退職金」
しかし、その退職が法人設立後相当の期間が経過した後であるときは、その支給した退職金の金額が法人の損金の額に算入されます。
| 退職の時期 | 個人時代の勤務に対応する部分 |
|---|---|
| 法人設立後まもなく | 会社の損金にならない。個人事業の最終年分の必要経費 |
| 法人設立後相当の期間が経過した後 | 支給した退職金の全額が会社の損金 |
会社になってから長く働いてもらっているなら、個人時代の分も含めて会社の損金でよい、ということです。「相当の期間」が具体的に何年かは、No.5220には書かれていません。ここは個別の事情で判断される部分ですので、退職の時期が法人成りに近い場合は、事前に確認されることをおすすめします。
法人成りのときに整えておくこと
法人成りの時点で、従業員の退職金をどう扱うかを決めておくと、後で迷いません。ポイントは、個人時代の勤続を会社が引き継ぐのか、個人事業の廃業時に一度精算するのか、という点です。
会社の退職給与規程を作るときに、勤続年数の起算日を個人事業での入社日にするのか、会社設立日にするのかを明記しておきます。個人事業での入社日にする場合は、法人成り直後の退職では個人時代の分が会社の損金にならないことを、あらかじめ織り込んでおきます。
役員に払う退職金は、また別のルールがあります。損金に算入する時期は役員退職金の損金算入時期で、法人成りそのものの判断はいくらから法人にすべきかで整理しています。法人成りは、従業員がいる方ほど決めておくことが多くなります。退職金もその1つです。
よくある質問
法人成り前から働いていた従業員の退職金は会社の損金になりますか
まず答えを書くと、個人事業を引き継いで設立された会社が、個人事業当時から引き続き在職する従業員の退職に伴い、個人時代を含めた勤務実績で退職金を計算して支給した場合、 個人時代の勤務に対応する部分の金額は会社の損金に算入されません。 国税庁のタックスアンサーNo.5220は、その部分は個人事業の最終年分の事業所得の計算上、必要経費になる、としています。→ 本文で読む
会社が払った退職金なのに、なぜ会社の損金にならないのですか
個人事業と、その事業を引き継いだ会社は、税務上は別の人格です。個人時代の勤務に対する退職金は、本来は個人事業主が負担すべき費用で、会社が負担する理由がない、というのが基本の考え方です。→ 本文で読む
会社の損金にならない部分はどこで経費になりますか
会社の損金にならない部分は、消えてなくなるわけではありません。No.5220は、個人時代の勤務に対応する部分の金額は、個人事業の最終年分の事業所得の計算上、必要経費になる、としています。→ 本文で読む
法人設立から時間がたっていれば全額を会社の損金にできますか
ここが実務で大事な分かれ目です。No.5220は、その退職が法人設立後相当の期間が経過した後であるときは、その支給した退職金の金額が会社の損金の額に算入される、としています。 会社になってから長く働いてもらっているなら、個人時代の分も含めて会社の損金でよい、ということです。 「相当の期間」が具体的に何年かは、No.5220には書かれていません。 ここは個別の事情で判断される部分ですので、退職の時期が法人成りに近い場合は、事前に確認されることをおすすめします。→ 本文で読む
法人成りのときに退職金について決めておくことはありますか
法人成りの時点で、従業員の退職金をどう扱うかを決めておくと、後で迷いません。ポイントは、個人時代の勤続を会社が引き継ぐのか、個人事業の廃業時に一度精算するのか、という点です。 会社の退職給与規程を作るときに、 勤続年数の起算日を個人事業での入社日にするのか、会社設立日にするのか を明記しておきます。個人事業での入社日にする場合は、法人成り直後の退職では個人時代の分が会社の損金にならないことを、あらかじめ織り込んでおきます。→ 本文で読む
出典
- 国税庁「No.5220 個人事業当時からの使用人に対する退職金」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5220.htm
この記事は、記載時点で公表されている法令・通達・国税庁の資料にもとづいて書いています。制度は改正されることがあり、また個別の事情によって取扱いは変わります。実際のご判断にあたっては、税理士にご相談いただくか、所轄の税務署にお確かめください。当事務所は本記事の情報を用いて行われた判断について責任を負いかねます。
法人成りのとき、従業員の退職金の扱いも決めておいてください。
個人事業当時からの従業員がいる会社は、退職金を「個人時代の分」と「法人になってからの分」に分ける場面が出てきます。退職の時期によって、会社の損金になる範囲が変わります。法人成りの前後に退職給与規程をどう作るか、個人事業の最終年分の申告にどう反映するかをあわせて整理します。ふじみ野市とその近隣の方は訪問でのご相談も承ります。初回30分は無料です。
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