申告
海外赴任から帰国した年の確定申告。
帰国前の国内源泉所得と帰国後のすべての所得を合計し、所得控除は居住者期間で分けて計算します
海外赴任を終えて年の途中で日本に戻った方から、「今年の確定申告はどうなるのですか」というご質問をいただきます。
答えを先に書くと、帰国した年は、帰国前の国内源泉所得と、帰国後のすべての所得を合計して申告します。海外勤務中の給与は非居住者期間の所得ですから、原則として日本の所得税はかかりません。
ただし、所得控除の計算には帰国した年ならではの決まりがあります。医療費控除や社会保険料控除は帰国後に払った分だけ、扶養控除などは年末の状況で判定します。国税庁のタックスアンサーNo.1935で、申告が必要な人と控除の計算を順に確認していきます。
この記事の要点
1年以上の予定で海外に転勤した給与所得者は非居住者となり、海外勤務に基づく給与は課税されません。帰国した年は、帰国前の国内源泉所得と帰国後のすべての所得を合計して申告します。帰国後の給与が2,000万円超、または帰国前の国内源泉所得等が20万円超なら確定申告が必要です。医療費控除などは帰国後に支払った分、扶養控除などは12月31日の現況で判定します。国税庁タックスアンサーNo.1935・No.1900をもとに整理しました。
先に見ておくと分かりやすいもの
1年以上の予定で海外転勤すると非居住者。海外勤務の給与は課税されない
1年以上の予定で海外の支店などに転勤した給与所得者は、所得税法上の非居住者になります。国税庁のタックスアンサーNo.1935は、給与所得者が1年以上の予定で海外の支店などに転勤すると、国外に転出した後は一般的に、日本国内に住所を有しない者と推定され、転出後は所得税法上の非居住者となる、としています。
国税庁 タックスアンサー No.1935「海外勤務者が帰国したときの確定申告」
非居住者の場合、国内源泉所得のみが課税対象とされ、海外で勤務する法人の役員の場合を除き海外勤務に基づき非居住者期間中に支給される給与は課税されません。
非居住者の間は、日本で課税されるのは国内源泉所得だけです。国内源泉所得とは、日本国内に源泉がある所得のことで、たとえば日本にある不動産の賃料などが当たります。海外勤務に基づいて非居住者期間中に支給される給与は、日本の所得税の対象になりません。ただし、海外で勤務する法人の役員は例外で、役員報酬は課税の対象です。
帰国後は居住者。帰国前の国内源泉所得と帰国後のすべての所得を合計する
帰国すると居住者に戻り、国内源泉所得に限らずすべての所得が課税の対象になります。No.1935は、非居住者に該当していた海外勤務者が日本に帰国した後は居住者となるので、その場合は国内源泉所得に限らずすべての所得が課税の対象となる、としています。
帰国した年の申告は、帰国の前後を分けて考えます。No.1935は、帰国した年分の確定申告は、帰国前の国内源泉所得(総合課税の対象となるものに限る)と帰国後のすべての所得を合計して計算することになる、としています。
| 期間 | 申告に含める所得 |
|---|---|
| 帰国前(非居住者期間) | 国内源泉所得のうち総合課税の対象となるもの |
| 帰国後(居住者期間) | すべての所得 |
帰国後の勤務に対する給与は、勤務先の年末調整の対象になります。No.1935もその点を明記しています。年末調整で処理されるのは帰国後の給与だけですから、帰国前の国内源泉所得があるかどうかで、確定申告の要否が変わります。年末調整の仕組みは年末調整の対象者と順序で整理しています。
確定申告が必要な人。給与2,000万円超、または帰国前の国内源泉所得等が20万円超
帰国した年に確定申告が必要になるのは、次のいずれかに当てはまる人です。No.1935は、控除しきれない外国税額控除の額、源泉徴収税額または予定納税の額がある場合を除き、原則として確定申告をする必要がある人として2つを挙げています。
| 確定申告が必要な人 | |
|---|---|
| (1) | 帰国後の給与の収入金額が2,000万円を超える人 |
| (2) | 帰国前の国内源泉所得と帰国後の年末調整の対象とされた給与および退職所得以外の所得の合計金額が20万円を超える人 |
(2)が実務でよく当たる条件です。帰国前に受け取った国内源泉所得(たとえば国内の不動産の賃料)と、帰国後の給与・退職所得以外の所得(副業や配当など)を合計して20万円を超えるかを見ます。No.1900は、給与を1か所から受けている人について、給与所得・退職所得を除く各種の所得金額の合計額が20万円を超える人は確定申告をしなければならない、としています。帰国した年はこの考え方に、帰国前の国内源泉所得を足して判定する、と理解してください。
なお、No.1935の括弧書きにあるとおり、控除しきれない外国税額控除の額や源泉徴収税額、予定納税の額がある場合は、還付を受けるための申告ができます。申告義務がなくても、源泉徴収された税金が戻る方は申告したほうが得になります。給与所得者の申告要否の全体は会社員でも確定申告が必要な7つの場合にまとめています。
医療費控除・社会保険料控除などは帰国後に支払った分で計算する
支払った金額をもとにする所得控除は、帰国後(居住者期間)に支払った分だけが対象です。No.1935は、医療費控除、社会保険料控除、小規模企業共済等掛金控除、生命保険料控除、地震保険料控除の各控除の額は、居住者期間(帰国後)に支払ったこれらの金額を基として計算する、としています。
海外にいる間に日本の生命保険料を払い続けていた、という方は多いと思います。ですが、帰国前に支払った分は、その年の生命保険料控除には入りません。保険会社から届く控除証明書には年間の合計額が書かれていますから、帰国日で区切って帰国後の分だけを拾う必要があります。医療費も同じで、帰国後に支払ったものだけを集計します。社会保険料控除の考え方は社会保険料控除で確認できます。
配偶者控除・扶養控除などは12月31日の現況で判定する
人に関する所得控除は、その年の12月31日の現況で判定します。No.1935は、配偶者(特別)控除、扶養控除、特定親族特別控除、障害者控除、寡婦控除、ひとり親控除および勤労学生控除の各控除の額は、その年の12月31日の現況により判定したところで計算する、としています。
こちらは帰国日で按分しません。年末の時点で要件を満たしていれば、その年の控除額を全額受けられます。たとえば、家族と一緒に帰国して、年末時点で配偶者や子どもが扶養の要件を満たしていれば、配偶者控除や扶養控除はそのまま使えます。「支払ったもの」は帰国後の分だけ、「人」は年末の状況で全額、と分けて覚えておくと整理しやすくなります。
基礎控除は居住者期間があるため加算の対象になる
基礎控除は、帰国した年に居住者期間があるため、合計所得金額に応じた加算の対象になります。No.1935は、基礎控除の額は、居住者期間を有することとなるため、合計所得金額に応じて租税特別措置法第41条の16の2の規定による加算がされることとなる、としています。
この加算は、No.1935の注記によると令和7年分以降の所得税について適用されます。帰国した年でも、年のうち一部でも居住者であれば、基礎控除は居住者としての額で計算するということです。加算後の具体的な額は合計所得金額によって変わりますから、国税庁のNo.1199「基礎控除」で該当する区分を確かめてください。帰国した年の申告は、所得の範囲・支払系の控除・人的控除・基礎控除で、それぞれ見方が違います。迷ったら、帰国日と年末の2つの時点で資料を並べるところから始めてください。
よくある質問
海外赴任中の給与に日本の所得税はかかりますか
1年以上の予定で海外の支店などに転勤した給与所得者は、所得税法上の非居住者になります。国税庁のタックスアンサーNo.1935は、給与所得者が1年以上の予定で海外の支店などに転勤すると、国外に転出した後は一般的に、日本国内に住所を有しない者と推定され、転出後は所得税法上の非居住者となる、としています。→ 本文で読む
海外から帰国した年の所得はどの範囲で申告しますか
帰国すると居住者に戻り、国内源泉所得に限らずすべての所得が課税の対象になります。No.1935は、非居住者に該当していた海外勤務者が日本に帰国した後は居住者となるので、その場合は国内源泉所得に限らずすべての所得が課税の対象となる、としています。→ 本文で読む
海外赴任から帰国した年に確定申告が必要なのはどのような人ですか
帰国した年に確定申告が必要になるのは、次のいずれかに当てはまる人です。No.1935は、控除しきれない外国税額控除の額、源泉徴収税額または予定納税の額がある場合を除き、原則として確定申告をする必要がある人として2つを挙げています。→ 本文で読む
帰国前に支払った生命保険料や医療費は控除の対象になりますか
支払った金額をもとにする所得控除は、帰国後(居住者期間)に支払った分だけが対象です。No.1935は、医療費控除、社会保険料控除、小規模企業共済等掛金控除、生命保険料控除、地震保険料控除の各控除の額は、居住者期間(帰国後)に支払ったこれらの金額を基として計算する、としています。→ 本文で読む
帰国した年の扶養控除や配偶者控除はどう判定しますか
人に関する所得控除は、その年の12月31日の現況で判定します。No.1935は、配偶者(特別)控除、扶養控除、特定親族特別控除、障害者控除、寡婦控除、ひとり親控除および勤労学生控除の各控除の額は、その年の12月31日の現況により判定したところで計算する、としています。→ 本文で読む
帰国した年の基礎控除はどう計算しますか
基礎控除は、帰国した年に居住者期間があるため、合計所得金額に応じた加算の対象になります。No.1935は、基礎控除の額は、居住者期間を有することとなるため、合計所得金額に応じて租税特別措置法第41条の16の2の規定による加算がされることとなる、としています。→ 本文で読む
出典
- 国税庁「No.1935 海外勤務者が帰国したときの確定申告」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1935.htm - 国税庁「No.1900 給与所得者で確定申告が必要な人」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1900.htm
この記事は、記載時点で公表されている法令・通達・国税庁の資料にもとづいて書いています。制度は改正されることがあり、また個別の事情によって取扱いは変わります。実際のご判断にあたっては、税理士にご相談いただくか、所轄の税務署にお確かめください。当事務所は本記事の情報を用いて行われた判断について責任を負いかねます。
帰国した年は、帰国日を境に資料を分けておいてください。
帰国前の国内源泉所得と帰国後の所得、帰国後に支払った社会保険料や医療費、年末時点の家族の状況が、その年の申告を組み立てる材料になります。勤務先の年末調整は帰国後の給与だけが対象なので、帰国前に国内で受け取った所得があれば申告の要否を確かめる必要があります。ふじみ野市とその近隣の方は訪問でのご相談も承ります。初回30分は無料です。
あわせて読む
同じテーマの記事
確定申告の手続
補助金で固定資産を買ったとき。総収入金額不算入の明細書
国や地方公共団体の補助金・給付金(国庫補助金等)を固定資産の取得や改良に充てた場合、確定申告書…
確定申告の手続
損害賠償金は必要経費になるか。業務関連性と重大な過失
個人事業主が加害者として支払った損害賠償金(慰謝料・示談金・見舞金を含む)が事業所得の必要経費…
確定申告の手続
非課税所得の一覧。通勤手当・慰謝料・相続財産は非課税
所得税法は所得を利子・配当・不動産・事業・給与・退職・山林・譲渡・一時・雑の10種類に分け、雑…
確定申告の手続
固定資産税・不動産取得税は必要経費。登録免許税は3区分
業務用の資産に係る固定資産税、登録免許税、不動産取得税、自動車税など8つの税金は必要経費になり…